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11月23日のまにら新聞から

台風ヨランダ(30号)

[ 1345字|2013.11.23|気象 災害 (nature)|ビサヤ地方台風災害 ]

早稲田大学の柴山和也教授が高潮の状況を解析。最大4メートルにも及んだとみられる

台風通過後のレイテ湾内の潮位を示した推算画像(早稲田大学柴山研究所提供)

 8日にビサヤ地方中部を襲った台風ヨランダ(30号)による災害では、タクロバン市をはじめレイテ、サマール両島沿岸に押し寄せた高潮が大きな被害を出した。当日の高潮状況を解析している早稲田大学の柴山和也教授(海岸工学)の調査では、推定される潮位は4メートルにも及んだとみられ、レイテ湾内では台風通過前後で風向きが一変し、高潮の威力を増幅させたことが分かった。同教授らは12月4日から1週間の日程で同市を訪問、住民からの聞き取りなど現地調査も行う予定だ。

 柴山教授の研究室では、独自開発した推算ソフトにヨランダの観測データなどを入力し、レイテ、東サマール両州、セブ州北部、外洋付近の5カ所を基準点に高潮に関する速報値を出した。その結果、ヨランダ襲来でビサヤ地方の海洋には、気圧の低下に伴う「吸い上げ」と呼ばれる水面の上昇、強風による「吹き寄せ」効果で潮位2〜4メートルの高潮が発生。被災者の中には「6メートル規模」との証言もあり、「海底の地形条件によっては、局地的にさらに高くなった可能性もある」(同教授)とみている。

 被災地の中でも特に日本の研究チームが注目するのは、3千人を超す犠牲者を出したレイテ湾奥に位置するタクロバン市だ。湾岸地域は海抜も低く、バングラデシュのベンガル湾をはじめ、米国のメキシコ湾や日本の伊勢湾など、過去の大きな高潮被害は遠浅の地形が広がる湾内で起きている。レイテ湾奥という地形条件に加え、台風通過の前と後で風向きが南向きから北向きへ一転したことが高潮被害の主な原因に考えられるという。

 同教授によると、レイテ湾内では反時計周りで回転する台風の接近に伴い、内陸から南へ向かって風が吹き、水位が急速に低下。しかし、台風が通過した2時間後に今度は北向きの風に転じたため、沖合から一気に高潮が湾内に流入した。

 同教授は「潮が引いた状態で高潮が流れ込み、推算でも潮位差は最大5メートルに達した。ネットの投稿動画でも確認したが、2011年3月の東日本大震災で起きた津波同様、『段波』と呼ばれる切り立った壁状の波が発生している」と指摘。段波については、「ダムの放水時のようなイメージ。波の先端が渦を巻き、エネルギーを溜め込んだまま進行してくるため、高潮のイメージを変えるほどの破壊力がある」とも。

 また、台風の最初の上陸ポイントとなった太平洋に面した東サマール州でも高潮被害が起きたが、「外洋には波のエネルギーを吸収する遮蔽(しゃへい)物がない。高潮の威力がそのまま直撃してしまったのでは」と推測している。

 海水温度の上昇に伴ってヨランダ級のスーパー台風襲来が一層懸念される中、高潮対策など防災設備の構築は急務。同教授は「木造家屋は必ず流れる。1970年に40万人の犠牲者を出した世界的な高潮被災地のバングラデシュは、コンクリート製シェルターを造ってから犠牲者が激減した。今回も3階以上のコンクリート建物であれば高潮被害は避けられたはず。予算などの問題は、学校をシェルターとして併用できるよう建設すれば解決できる」と話す。

 今後は比の研究者とも連携して調査を進め、成果は学術雑誌などを通じてを広く発表、比当局にも提言していくという。(東京支局・野口弘宜)

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