台風ヨランダ(30号)
被災地へ3 東サマール州ギワン町も甚大な被害、多くの民家や鉄塔が倒壊
17日午前7時、サマール州カトバロガン市ブライから、住民のオートバイに相乗りさせてもらって、台風ヨランダ(30号)の被害が大きかったと聞いた東サマール州ギワン町に向かった。山を越えて南下し、海沿いにある同州バサイ町に出る。そこから海岸線に沿って東に進んだ。
海岸線のほとんどの集落で数多くの民家が崩れ落ちている。学校や教会も壁がはげ、屋根が吹き飛ばされていた。木々や電柱が横倒しになり、垂れ下がった電線が国道を塞いでいる。道路わきには子供たちがあちこちに並び、前を通る車両に手を差し伸べて食料をねだっている。オートバイの運転者に聞くと、台風の前は子供が物をねだるような光景はなかったという。2時間ほど走ると、海岸近くに巨大な鉄塔が根元から折れ曲がって倒れているのを目の当たりにした。烈風が通り過ぎたのだろうか。
海岸線を約5時間走り、正午過ぎにギワン町に着いた。町の中心部は、あちこちにがれきが積み上げられ、砂ぼこりが舞っている。コンクリート造りの家屋さえ数多く倒壊しており、原形をとどめている建物は見当たらなかった。
町役場に行くと、2階建て庁舎の外で、町長と各バランガイ(最小行政区)の議長が集まり、今後の対策を練っていた。ちょうどこの日、アキノ大統領がギワン町を訪れ、被災した市街地を視察していた。午前10時に町内の国軍基地に飛来したという。
大統領は庁舎での対策会議にも出席し、町長から報告を受けた。その後、約15分ほどサマール、レイテ両島の被災状況と対策などについて話した。
ギワン町は17日現在、死者99人、行方不明16人、負傷者2669人を数える。特に太平洋沿いにあるバランガイ・サパオでは死者18人と最も大きな被害を被った。
セゴンディーノ・ユディコさん(56)は、海から約100メートル離れた民家で、夫と2人で暮らしていた。8日未明、大きな風の音で目を覚ますと、2メートルほどの高さの高波が家を襲うところだった。必死で壁にしがみつき、耐えた。約2時間後、風が落ち着いたので外に出ると、飼っていた豚や牛、ニワトリがすべていなくなっていた。後日、周辺を探すと、家から1キロほど離れた別のバランガイで自分の牛の死骸を見つけたという。
ユディコさんは、避難所には行かず、自分の家にまだ住んでいる。石造りの家の壁ははがれて、家の中はむき出しになっている。井戸の水もまだ汚れたままだ。それでも「人の多い避難所より、家にいた方が良い」と話した。
激しい高波は海から500メートルほど離れた民家も襲った。漁師の夫を持つジュデット・マカウィルさん(38)は、7日の昼、夫や4人の子供と一緒に、近くの小学校へ避難していた。学校の中には100人ほどの避難者であふれていた。8日午前4時ごろ、強風が吹き、校舎を揺らした。ひざがつかるほどの濁流が校内にも押し寄せた。
翌9日には水が引いたので自宅に戻ると、家が建っていた場所には、何も残っていなかった。
マカウィルさんらは現在、散乱した木材を集め、自宅のあった場所に掘っ立て小屋を建てて暮らしている。支援物資の配給は2日に1度。コメ2キロや缶詰をもらうが、家族6人では足りず、1日に1食しか食べることができない。船も流されたので、漁にも出られないでいる。「食べ物も仕事もない。苦しい生活が続いている」と話すマカウィルさんの目には、涙があふれていた。(加藤昌平)