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12月29日のまにら新聞から

国内主要食品の価格来年も楽観視できず エルニーニョへの備え必須か

[ 2754字|2023.12.29|経済 (economy) ]

年末検証:昨年世間を騒がせた玉ねぎと砂糖、豚肉そして比食卓に欠かせないコメの今年の価格推移を追った

(上)紫玉ネギ、精製砂糖、豚肩ロース(カシム)およびばら肉(リエンポ)の価格推移=(農務省価格モニタリニングより)。(中)標準精米および上白精米の価格推移=(農務省価格モニタリニングより) 。(下)米価は50~60ペソが主流になり、40ペソ台は見当たらない=28日、首都圏マカティ市テヘロスで沼田康平撮影

 2022年後半から急激に高進した消費者物価指数の対前年同月比上昇率(インフレ率)は今年1月に8.7%を記録した。これは2008年12月以降で最も高い水準だった。以降、段階的に減少し、11月時点でインフレ率は4.1%まで下落している。昨年はフィリピンの食卓にも欠かせないタマネギが一時期、1キロあたり800ペソに上るなど世界一タマネギが高い国と話題にもなった。今年の食料品の物価はどうであったか、農務省が公開している首都圏の農産物小売価格モニタリングデータを参考に振り返りたい。

 

 ▽タマネギと砂糖は今

 天候不良や自然災害により昨年8月以降、価格高騰や供給不足に陥ったタマネギは23年1月2日のデータで1キロあたり550~700ペソ(国産紫タマネギ)をピークに、徐々に下落。政府は昨年後半、再三輸入を実施し、小売価格を規制するなど対策を講じてきた。収穫期も到来し、3月以降は同100ペソ台を維持。今年は通年で概ねインフレ率と同じ動きをしながら、下落した。12月22日現在の価格は同120ペソに落ち着いている。

 加えて昨年に輸入問題で世間を騒がせた砂糖については昨年末、1キロあたり100ペソまで上昇した。直近の2カ月は下落が続き、精製砂糖が1キロあたり75ペソまで低下してきたが、21年の精製砂糖の価格がほぼ同50ペソで推移したことを鑑みると、まだまだ高い水準にある。21年の台風オデットにより、主要生産地の一つである西ネグロス州のサトウキビが不作となり、砂糖の供給不足につながったとみられている。加えて砂糖生産者連合(UNIFIED)によると、買い占めや価格操作も横行し、不要な価格高騰を生み出したと指摘している。なお、砂糖の輸入を巡っては22年に砂糖規制庁と農務省の間で見解が異なり、同庁幹部らが辞任する騒ぎに発展していた。

 

 ▽遠い豚肉200ペソ台

 次にフィリピン人が大好きな豚肉をみていきたい。農務省によると、比における豚肉の1人あたり年間消費量は14~16キロで、世界平均(同11~12キロ)を上回る。19年第4四半期にアフリカ豚熱(ASF)の感染が国内で初めて確認されて以来、価格は高止まり。19年12月2日の価格をみると、豚肩ロース(カシム)は1キロあたり175~220ペソ、ばら肉(リエンポ)は同185~250ペソを推移。その後価格は上がり続け、21年1月4日にはカシム同300~370ペソ、リエンポ同330~420ペソと高騰。ドゥテルテ前政権は21年2月に豚肉の小売価格に上限(カシム同270ペソ、リエンポ同300ペソ)を設定する大統領令を発効し、同年5月にはASF感染拡大を防ぐため、国内全域に非常事態宣言を発令。低関税による最低輸入枠も大幅に引き上げた。輸入量は20年比で約2倍となり、需給バランスが改善されるかに思えたが、21年、22年ともにそれぞれ300ペソを下回ることはなかった。今年1月2日時点の価格はカシム同270~350ペソ、リエンポ同330~400ペソだったが、12月22日にはカシム同260~370ペソ、リエンポ同300~400ペソと多少の下落がみられた。

 政府はこのほど、豚肉やコメなどの輸入関税の軽減を24年末まで維持する大統領令を布告している。豚肉は輸入量割当内であれば15%、割当外であれば25%となっている。比豚肉生産者連盟のブリオネス会長は「輸入に依存しすぎないように」政府へ適切な対応を求めるとともに、悪徳業者による価格操作を促すと価格の上限設定については慎重な姿勢を示している。一方、比統計庁によると、国内の豚飼育数は21年1月時点で972万頭と、25年ぶりの低水準になった。今年9月末時点で986万頭とこれまで増減はあったものの、あまり増えていない。単純に輸入を増やして需要を満たすのではなく、地場産業の復興やワクチンなどのASF対策、国内に目を向けることも必要かもしれない。

 ▽比でコメ騒動再来

 今年最も世間を騒がせたのはコメではないだろうか。日本人以上に、コメ好きな比人にとって米価は生活に大きな打撃を与える。価格推移にみると、今年1~6月まで国産の標準精米は1キロあたり34ペソ、上白精米は同39ペソと横ばいだった。7月以降、徐々に値段が上がり、9月1日には標準精米同42~55ペソ、上白精米同47~57ペソにまで上昇。比統計庁の9月のインフレ率ではコメが14.1%と、2009年3月以来の上昇率を記録した。マルコス大統領は「供給量は十分な水準」とし、買い占め業者による価格操作を米価高騰の原因と指摘したが、そもそも供給量が不足しているとの声も叫ばれていた。またロシアによるウクライナ侵攻でサプライチェーンが混乱したことやコメ生産大国インドの輸出禁止措置も影響した可能性がある。

 大統領は同月、コメ価格の急騰を受け、小売価格に上限(標準精米同41ペソ、上白精米同45ペソ)を設ける大統領令を出した。上限価格を順守しない小売業者に対しては罰則を科すとともに、最大1万5000ペソの助成金を支給した。一方、政府内外から批判の声も多く上がった。シンクタンク「経済の自由財団(FEF)」は「価格上限設定は需給ギャップの解決やインフレ軽減に効果的ではない。コメ危機へと状況を悪化させるだけ」と辛口。またジョクノ財務相も同措置に消極的な立場を示し、農務省と貿易産業省が提言し、わずか1カ月足らずで同措置は解除された。12月22日時点では標準精米同40~56ペソ、上白精米同43~52ペソを推移している。

 FEFのモンテメイヤー会長は24年のコメの価格が悪化する可能性を指摘する。「国際価格の高止まりが続けば、輸入量は減る。地元の生産高の大幅な増加がなければ収穫期7~9月を待たずして供給が不足し、価格が高騰する」と分析。加えて来年前半まで続くとみられるエルニーニョ現象による降雨量の減少が収穫高に大きく影響すると警鐘を鳴らしている。

 政府もコメの関税軽減策(割当問わず35%)を維持し、輸入への環境整備を進めている。すでに来年1月前半までに台湾や禁輸を緩和したインドなどから7万6000トンの輸入米が入荷する予定。米農務省は比のコメ輸入量が今年度、380万トンに上り、輸入最大国の中国(350万トン)を追い抜き、1位になると予測している。一方、エルニーニョ現象が猛威を振るうとみられる来年は輸出国のインドやタイ、ベトナムの供給に頼るのも心許ない。自国はじめ各国の生産が不作に終われば、価格は今以上に跳ね上がる可能性もある。エルニーニョ現象と国際情勢を前に、比の米価の見通しは来年も不透明だ。(沼田康平)

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