「ビジネス関係に新章」 比最大経済団体と覚書
日本商工会議所が比最大の経済団体である比商工会議所と貿易・投資、経済協力のための覚書を初めて締結
日本3大経済団体の一つ日本商工会議所と、フィリピン最大のビジネス団体である比商工会議所は24日、協力促進に関する了解覚書(MOU)を初めて取り交わした。同覚書では、「特に情報通信技術、イノベーション、農業、製造業、金融業、観光業、サービス業、中小企業開発」を優先分野と特定し、比日間の貿易・投資を一層拡大するための情報交換・情報周知を定期的に実施することが明記された。同時に、両国企業間のビジネス交流の促進、会員企業間に紛争が発生した場合の両所による仲介などについても合意された。
署名式には日本国大使館から越川和彦大使、貿易産業省から自由貿易協定担当のセフェリノ・ロドルフォ次官が参加したほか、比日の企業トップらビジネス関係者100人以上が出席した。今回の覚書締結は、2月のマルコス大統領訪日時に開催されたビジネス団体対話でフィリピン側から提案され、その後約8カ月で締結に至った。比進出の際に現地パートナー企業と提携することが多い日本企業にとって、民間レベルから比進出環境が一段と整ったと言えそうだ。
比商工会議所のジョージ・バルセロン会頭=BDO社外取締役=は、「このMOUは両国の結束の証明であり、比日ビジネス関係が新章に入ったことを象徴する」と祝福。比日協力について「日本は比にとって最大の政府開発援助(ODA)の供与国だ。それによって比史上初の地下鉄が現在建設されている」と述べた際は、会場から拍手が上がった。
日本・東京商工会議所の小林健会頭=三菱商事相談役=は、「われわれはコロナ後4年ぶりのミッション(代表団)の最初の派遣先として比を選んだ。今年2月にはマルコス大統領が訪日し、3月には4年ぶりに日比経済委員会、比日経済委員会の合同委員会が対面で開かれた。さらに今年は日・東南アジア諸国連合(ASEAN)友好50周年の年だ」とし、今年、比日経済交流が大幅に進展したことを強調した。
同会頭はまた、前日午後に行ったマルコス大統領との会談の際、午前中のパスクアル貿易産業相との会合について質問されたことを明らかにし、「人材、インフラ、カーボンニュートラル、バナナやパイナップルの輸入まで幅広く話したと報告したところ、大いによろこんでおられた」と手応えを語った。
▽日本技術で脱酸素を
東京ガスの広瀬道明相談役=東京商工会議所副会頭、日商特別顧問=は、日本政府がグリーントランスフォーメーション(GX)推進戦略の下、今後10年で官民合わせ150兆円の投資を行う計画であることを説明。そうした政府に日本商工会議所は、①エネルギー安全保障と安定供給の確保②カーボンニュートラル技術関連の開発とアジア等海外展開も含めた実装と普及③地域社会と中小企業の脱炭素への挑戦――の3本柱からなる意見書を提出していることを報告した。
また比の脱炭素への取り組みに対して東京ガスは、排気ガス等から採取した二酸化炭素と水素を反応させメタンを生成する「メタネーション」や浮体式洋上風力の技術で貢献ができるとした。
さらにマルコス大統領との会談で、大統領が「カーボンニュートラルへの移行においては、それぞれの国、それぞれの企業の移行の形がある」と述べていたことを紹介し、「まさにその通りで、われわれは比の国情に沿って、賢く優しい脱酸素への挑戦を支援したい」と意欲を語った。
エネルギー輸送大手・上野グループの中核海運会社である上野トランステックの上野孝代表取締役会長CEO=横浜商工会議所会頭、日商副会頭=は、世界で初めてとなる太陽光発電装置の船上設置、アジア初のLNGと適合油対応バンカリング船の建造、水素燃料エンジンによる電気推進船の建造など、省エネやクリーンエネルギー推進に対する同社の取り組みを説明。
比については「東南アジアではタイに次いで2番目に多い日射量に恵まれている一方で、消費者の購買力に対する電気料金が非常に髙い地域だ」と指摘。その上で、同グループ企業のトランスナショナル・ウエノ・ソーラー・コーポレーション(TUSC)が比初の「エコ空港」として知られるボホール州のパンラオ国際空港の太陽光発電設備の施工を行うなど、比で産業用太陽光発電設備施工分野をリードしていることを紹介。発電状況をリアルタイムでモニタリングし、髙パフォーマンスを確保する同社のアフターサービスにより、安定的な電力供給を実現しながら、炭素排出を実質ゼロにする取り組みを支援していることを説明した。(竹下友章)