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8月8日のまにら新聞から

「量から質への転換」が鍵 北海道観光の回復・成長へ

[ 2049字|2023.8.8|経済 (economy) ]

コロナ明けの観光業界をどう再生するのか、北海道ASEAN事務所の岡部所長に聞いた

まにら新聞のオンラインインタビューに応じる北海道ASEAN事務所の岡部所長

 「私は北海道丸ごとセールスマン」と話す北海道ASEAN事務所の岡部善尚所長。道庁の経済企画局国際経済課の管轄下である同事務所は、北海道経済の柱である観光業促進や道産食品の輸出に加え、企業・学生間の交流の支援まで北海道に関する経済振興を担う。6月には比旅行博に参加し、地域の観光商品を押し出していた。コロナ明けにおける北海道観光のあり方を岡部所長に聞いた。(聞き手は沼田康平)

 ―北海道観光の現状は。

 回復途上。世界の国々と同様、新型コロナウイルスの影響で、需要が減り、インバウンドは消失。現在の国内需要は旅行割などで回復しつつあり、今年3月時点の道内宿泊者数は国内旅行者でコロナ前の74%まで、訪日外国人来道者数は同66%まで回復した。コロナ前229便あった北海道と海外を結ぶ国際線は今年2月時点で130便と回復率は57%。比においてはコロナ前、新千歳~マニラ間の直行便が週3便あったが、現在は0便。

 

 ―外国人観光客について。

 コロナ前、過去最高を更新した平成30年度に北海道を訪れた外国人観光客は312万人。国・地域別では東アジアの比率が大きい。韓国が最多の73万1200人で、全体の23・5%を占める。次いで中国(70万8900人、22・8%)、台湾(59万4200人、19・1%)、タイ(23万5200人、7・6%)、香港(20万5000人、6・6%)、マレーシア(12万8900人、4・1%)。比は2万1300人で0・68%を占めていた。

 タイ、マレーシア、シンガポール、比、インドネシアのASEANの合計は49万3400人で全体の15・8%。地域のくくりではASEANが東アジアに次ぐ。

 欧米諸国については人数がアジアより少ないが、長期滞在で、旅行単価が高くなる傾向がある。

 ―ASEAN旅行者の特徴は。

やはり国ごとに異なる。日本政府観光局データの引用になるが、例えば、シンガポールでは国籍保有者の7割以上が訪日旅行経験のあるリピーター中心の成熟市場。一方、タイでは海外旅行経験者の約7割が未訪日であるが、訪日旅行経験者の7割超がリピーターであるという特性がある。

 ―ASEANや比の市場をどうみる。

 ポテンシャルは大きい。直行便もコロナ前のように戻ればアクセスも容易になり、観光客はプロモーション次第で伸びる。コロナ前も大きく伸び続けていた。引き続きプロモーションを重視していきたい。

 ―北海道の競合は。

 世界的スキーリゾートのニセコがあり、日本国内の北国と比べても負けない武器がある北海道だが、先日参加した比の旅行博で強く実感したのは比人の多くがすでに東京や大阪へ訪れたことのある人たちであり、やはりこれらゴールデンルートの優位性、強みは大きいと感じた。

 日本への窓口である成田空港・羽田空港に着いたら、東京があり、新幹線を利用すれば日本の伝統文化に触れられる京都がある。

 

 ―ASEANにとって北海道の魅力とは。

 ASEANにない冬、雪は強力なコンテンツ。冬になると、スキーやスノーボードに興じる人もいる一方、道庁旧本庁舎(赤レンガ庁舎)前の一面が雪で埋め尽くされ、そこで雪遊びをする観光客もいる。

 ASEANの人たちは花好きも多い。春は芝桜やチューリップ、夏は富良野のラベンダーやひまわり畑、さらに北海道でしか見られない高山植物もある。

 例えば、北海道東部では滝上町の芝桜や湧別町のチューリップが楽しめるし、網走を拠点として春の花観光もできる。最寄りの女満別空港は羽田空港からの直行便があり、アクセスも良い。

 ―観光における課題は。

 冬に観光客が集中している点。ハイシーズンは宿泊ベッド数が足りず、雪まつりの時期の札幌はどこも満杯に。しかし、繁忙期に合わせてしまうと、閑散期の運営が厳しくなる。冬以外の季節に観光客を分散することが重要。

 ―北海道の観光戦略は。

 旅行単価を上げるためには量から質へ方針転換する必要がある。北海道は今年9月にアドベンチャー・トラベルにおける世界最大のイベント「Adventure Travel World Summit(ATWS)」の開催地として選ばれた。19年大会では世界60カ国から旅行会社、政府観光局など約800人が集い、セミナーや商談会を行った。ATWSを契機に体験型コンテンツの磨き上げを強化し、旅行単価の向上につなげたい。

 戦略は地域ごとに異なるが、例えば比に対しては旅行博などを通じて食や自然、ショッピングを訴求していく。北海道観光の司令塔である北海道観光振興機構はすでに比でのBtoB(企業間)のプロモーションに動き出している。

 おかべ・よしなお 1980年11月東京生まれ。北海道大法学部卒。06年入庁後、外務省に出向し在カナダ日本国大使館でも勤務した。23年に北海道ASEAN事務所所長に就任。

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