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8月2日のまにら新聞から

比EU協力「次のレベルに」 ビジネス会議で欧州委員長

[ 2094字|2023.8.2|経済 (economy) ]

欧州委員長がマカティビジネスクラブで講演。比の中国依存脱却への支援を約束

マカティビジネスクラブで講演するフォンデアライエン欧州委員長=7月31日、首都圏マカティ市(EU公式ストリーミング放送より)

 比の主要経済団体の一つマカティビジネスクラブは7月31日、欧州連合(EU)、フィリピン欧州商工会議所と共同で「EU・比関係の新時代」と題した会議を開催し、比訪問中の欧州委員会ウルズラ・フォンデアライエン委員長が講演を行った。EUの「内閣」に当たる欧州委員会のトップである同委員長は、ロシアのウクライナ侵攻以前の欧州のロシア化石燃料依存について「地政学的問題をビジネスを通じて管理できると思い違いをしていた」と明言。その上で「EUは同じ過ちを犯さない」とし、アジアにおける中国の経済・安保上のリスクを指摘、比EU間の安保・経済協力を「次のレベルに高める時だ」と訴えた。

 EUは、第二次大戦の反省から戦争防止のため経済の相互依存を高めることを意図した欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC、1952年)を前身とする。同委員長は、ウクライナ戦争を機に、地政学的に対峙(たいじ)する相手と経済依存を深めることで紛争リスクを低減するという基本思想を転換する姿勢を鮮明にしたとともに、力や経済的な威圧により自国の主張を強める中国への経済依存を低減し、比などインド太平洋地域の「同志国」との経済関係を強化する姿勢を打ち出した。

 ▽対中懸念を共有

 同委員長はEUと比が協力できる分野として①国際安全保障②グリーン・デジタル経済化②民主主義――を挙げた。一番目に挙げた安保に関して同委員長は、「アジアは世界で最も経済が成長している地域。アジアの問題は世界の貿易・安定に影響を与える」と指摘。中国に対して「国連安保理常任理事国なのにウクライナの主権と領土一体性を守るための責任を十分に果たしていない。一方、自国の主張を一層強め、南・東シナ海、台湾海峡で軍事力を誇示した。これは比や他の国に直接悪影響を与え、世界的にも波紋を生じさせた」と踏み込んだ批判を行った。その上で、「EUは中国に一貫して沿岸国が排他的経済水域(EEZ)に持つ主権的権利を尊重するよう要求してきた」とした。

 比に対しては「国連、東南アジア諸国連合(ASEAN)、世界貿易機関(WTO)の創設メンバーであり、ロシアの軍事侵攻に対し欧州各国とともに非難の声を上げた」とし、国際秩序形成への貢献を称賛。その上で「われわれは国際法への尊重を再強化するため『自由で開かれたインド太平洋』の促進に取り組む」とし、海上保安やサイバー空間などの分野を中心に「比との安全保障協力をさらに深化させたい」と訴えた。

 ▽「過ち繰り返さぬ」

 経済協力について同委員長はウクライナ戦争前に欧州がロシアの化石燃料に大きく依存していたことに触れ、「戦争が始まると、ロシアは8カ月間、欧州に対する天然ガスの80%の供給を止めた。これは深刻なエネルギー危機をもたらした」と振り返った。その上で、「その危機にわれわれは耐えた。エネルギー使用を20%節約し、化石燃料の輸入先を米国、ノルウェー、アルジェリア、モロッコなどの同志国に多様化させた。そして自国生産できる再生可能エネルギーに大規模投資を行った」と説明。昨年EUで初めて太陽光・風力発電量が天然ガス発電量を上回ったと報告し、「EUはより強くなり、教訓を学んだ。そして2度と同じ過ちは犯さない」と強調した。

 比に対しては、「比はニッケルの90%をそのまま中国に輸出している。雇用と付加価値を創出するためには国内で加工することが必要だ」と指摘。「燃料だけでなく重要な原料についても、一つの供給国に依存してはならない。比はこの構造を変えられる」と呼びかけ、EUの新興国支援戦略「グローバルゲートウェイ」に基づき、ASEANに100億ユーロ(約1兆4000億円)規模の投資を実行する計画を説明した。

 同計画について「EUは最高の環境基準を適用するとともに、原料を採取するだけの他国の投資と違い、相手国内に加工産業を育成するなどバリューチェーン形成を目指している」と説明。同計画が比国内に雇用を創出しながらEUの供給網を強化すると強調した。

 またデジタル分野について、「比の平均年齢は世界平均より5歳も若く、比のEコマース市場は3年で35%も拡大した。デジタル分野で地域の中心になれる」と比の潜在性を高く評価。その上で「デジタル分野ベンチャーにとって大事なのはデジタルインフラだ」とし、アジア初となるEU衛星による地球観測情報の共有事業や5G通信インフラ投資を含むデジタル化支援パッケージを策定中としたほか、「欧州から北極圏・日本を経て比に接続する海底ケーブル敷設の実施可能性を検討している」と明らかにした。

 三つ目の協力領域として挙げた民主主義については、「どの国も完璧ではないが、完璧になる可能性がある。どの民主主義国も相違があるが、同じ普遍的価値を奉じている」とした上で、「現政権は比の人権問題に対していくつもの重要なステップを踏み出している」と評価した。EUが複数回にわたって抗議を行ってきた前政権の麻薬撲滅政策下で発生した超法規的殺害問題については全く言及がなかった。(竹下友章)

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