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5月16日のまにら新聞から

「需要刺激と小企業支援を」 成長率減速でイボン財団が提言

[ 1356字|2023.5.16|経済 (economy) ]

イボン財団「成長率減速の原因は消費鈍化。政府は賃上げと現金給付、零細企業支援を」

 国内シンクタンクのイボン財団=1978年設立=は14日、昨年7・2%だった国内総生産(GDP)成長率が今年第1四半期(1~3月)は6・4%に減速したことを受け、主要な原因は所得水準の低さと物価高による家計消費の鈍化だとするレポートを公表した。

 同レポートは、支出から見たGDPの7割以上を占める家計最終消費支出の成長率が「4四半期連続で減速している」と指摘。経済活動が再開された22年第1四半期の10%から、23年同期には6・3%と3・7ポイント低下したとした。

 家計支出鈍化の原因については「物価の高止まりと低水準の賃金、雇用の悪化により、家計の購買力が低下したため」と分析。対策として「成長の原動力である総需要を拡大するため、賃上げと現金給付を実施することが急務だ」と提言した。

 ただし、現金給付による需要刺激と賃上げは、供給能力に対する需要の増加や膨張する労務費の価格転嫁を通じインフレに拍車をかける恐れがある。それについては「供給能力の向上によってインフレ高進リスクに対処するべきだ」と指摘。具体的には、農業・漁業従事者や小企業・零細企業を対象とした政府による生産性向上支援が「最も乗数効果(経済波及効果)が高く、かつ家計に直接効果をもたらす政策だ」と説明した。

 一方で同レポートは、政府が力を入れる輸出増加や外資誘致といった国外志向の政策について、「世界経済が弱まり、世界同時不況の可能性が高まるなか頼りにならない部門だ」と批判。資本集約的・輸出依存的な部門への政府投資から、国内の中小零細事業者に重点を移し、内需主導の成長を目指すべきだと提言した。

 ▽成長しても雇用減る

 同レポートはまた、複数の業種に産出付加価値の成長と雇用の縮小が同時に発生していることを指摘。今年第1四半期、医療保健・社会福祉業は7・5%成長するなかで雇用は11・1%(7万9000人)減少、製造業は2%成長するなかで雇用は1・3%(4万6000人減少)、建設業は10・8%成長するなか雇用は0・4%(1万8000人)減少したとし、情報通信業、金融保険業にも同様の傾向があると報告した。

 これらの産業では労働生産性が向上したことになるが、それが労働節約・失業者の発生をもたらしていることが示唆された。

 比統計庁によると、昨年12月に4・3%まで下がっていた失業率は、今年3月は4・7%に微増する一方、全労働力に対する就業者と求職者の割合である労働参加率は66・4%から66・0%に低下。今年に入って足元の労働環境は停滞気味だ。

 そんななか、現在上下両院では、最低賃金を一律150ペソ引き上げる法案を審議している。従来の経済学の常識では賃上げ(=労働価格の値上げ)は労働需要を下げ失業率上昇の原因となると説明されてきた。

 だが21年にノーベル経済学賞を受賞した米カリフォルニア大のデービッド・カード教授らの研究は、最低賃金上昇の雇用への悪影響は軽微であることを実証している。ただし、最賃上昇の影響は価格に転嫁されることも同研究で分かっている。インフレと内需鈍化の板挟みのなか、物価上昇を抑制する供給能力の向上と雇用創出を同時にもたらす部門への政府投資が必要性を増している。(竹下友章)

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