活気戻り始めた国内観光の島① コロナ禍で進んだ新規参入
まにら新聞取材班は首都圏から日帰りで行ける国内観光地として知られるバタンガス州フォーチュン島を訪れた
新型コロナ感染減少を受け、比政府は2月に無査証滞在を認める国・地域を対象に観光入国が再開、3月1日からは首都圏と38市・州で防疫警戒レベル1への緩和を行うなど約2年にわたる防疫規制の出口が見えつつある。そんな中、全国の観光地では本格的にリゾートなどの営業が再開されようとしている。まにら新聞はこのほど、そうした観光地の一つであるバタンガス州ナスグブ町フォーチュン島を訪ねた。
フォーチュン島はナスグブ海岸から西に14キロメートルにある無人島。比人の間では白砂のビーチ、エメラルドグリーンの海、リゾート開発の名残りであるギリシャ風の廃墟で知られた名所だ。首都圏からは日帰りで行ける距離であるため「身近な屋外観光地」として、国内観光回復の恩恵を真っ先に受ける場所の一つと考えられる。
▽コロナ下の参入
5日午前10時半ごろ、フォーチュン島対岸のナスグブ海岸には土産物販売の男性たちが「チンジュ(真珠)、チンジュ」と言いながら売り歩く。現在、同島へ舟を渡す「フォーチュンアイランドリゾート」を経営するのは韓国系資本ということもあり、東アジア人を見ると韓国風の発音で売り込む。
その一人、アルソッドさん(27)は、朝9時から午後5時ごろまで浜辺で観光客を捕まえ土産物を販売し生計を立てている。真珠のネックレスが850ペソ、イヤリングが300ペソ。交渉次第では「値下げもある」。
外国人には高価格帯の真珠商品を販売し、フィリピン人には70ペソ前後のマグネットやキーホルダーを売る。地元客向けグッズの方が品ぞろえは良い。
ナスグブ町に住むアルソッドさんは以前、日雇いの建設業や漁をして暮らしていたが、昨年12月に土産物売りに転業した「新規参入者」だ。昨年11月首都圏の防疫警戒レベルが2に緩和され、国内観光業が本格的に再開したタイミングに決断した。
転業の理由について「建設業は疲れた。土産物を売る方が日銭は入る」と片言の英語で語った。現在観光客の大半が比人だが、韓国人観光客も2割ほど来るという。
フォーチュン島には同海岸からバンカ(アウトリガーの付いた木造船)で渡る。ルエルさん(23)はバンカの船員だ。砂浜に直接バンカを付け、胸まで波に浸しながら、乗客の乗り降りを手助けし、着岸時はアンカーロープを引いて舟をギリギリまで浜に寄せる。
ルエルさんはコロナ禍の真っ只中である2020年まで同町の住み込み工場で働いていた。同年11月、ルエルさんは転業を決意。その時期は全国で防疫規制が修正一般防疫地域(MGCQ)に緩和されて、一時的に国内観光が回復していた時期だった。
11カ月後の昨年10月、人手が必要となり、前の職場でルームメイトだったボキさん(23)に転業を促した。誘いに乗ったボキさんは「工場労働のときは日給373ペソだったが、ボートの船員だと500ペソに上がる」と転職理由を語った。
観光客のほとんどが比人。まにら新聞取材班が「今年初の外国人客」。しかし来週にはアメリカ人団体の予約が入っているという。
船員たちは一時帰還せず乗客と共に島に滞在し、荷物運びや火起こしなどの雑用・肉体労働に従事する。しかし英語力の制限もあり、ガイドのような案内業務は一切行わない。浅瀬に広がるサンゴ礁の生態系も、謎めいたパルテノン神殿様の列柱も、説明できる人はいなかった。
▽階層的な域内観光圏
島に入ると、約20メートルの海岸とその奥のキャンプ地には70〜80人ほどの観光客でにぎわっていた。そのほとんどが比人家族客だ。
アデル・タヘロさん(34)は家族や親類と来島。全員で22人の大所帯。車で片道1時間ほどのカビテ州から毎年訪れているという。首都圏とその近隣州で3月から警戒レベルが1に引き下げられたタイミングで来島したのかと尋ねると「関係ない」と一言。
一方、新婦の結婚写真を撮影しに来たという団体客の一団に声をかけると対象的な答えが返ってきた。一団のドライバー、ロフティさん(57)によると、100キロ以上先のブラカン州に住む新郎新婦とその家族は昨年にフォーチュン島での記念撮影を計画していたが、防疫規制強化の時期と重なり計画を延期。その1年後に来島が実現したという。
コロナ下で注目を浴びた「域内観光」。目まぐるしく変わる防疫規制下では「日帰り旅行圏」と、事前に綿密な準備が必要な「一泊旅行圏」の間の境界が明確になったようだ。
同リゾートによると、昨年に警戒レベル制に移行する前は、MGCQ期間中のみ営業できた。防疫区分が一般防疫地域(GCQ)以上に引き上げられるたびに休業を余儀なくされ、21年では3月、8月にそれぞれ営業を休止している。
コロナ下であまりに不安定な形で観光サービスの停止と再開が繰り返された。そうした中、国内観光地は日帰り観光商圏の需要と流動的な非熟練労働によって下支えされ、いま活気を取り戻しつつある。(竹下友章)