弱い経済と最悪の失業状態変わらず 高中位所得国入り見通しで
2022年中に比が高中位所得国入りする見通しが政府内で出ていることについてイボン財団「一握りのエリート層の繁栄」
カール・チュア国家経済開発庁長官が最近、年内にもフィリピン国民の平均所得水準が世界銀行の定めた高中位所得国入りするとの見通しを示したことに対し、国内シンクタンクのイボン・ファウンデーションは14日までに、「たとえその水準に達しても、一握りのエリート層の繁栄を映したものに過ぎない」とドゥテルテ政権の経済政策を批判する声明を出した。
世界銀行は、2020〜21年の1人当たり国民総所得(GNI)に基づく世界の国・地域の所得分類を発表しており、それによると、フィリピンは20年時点で3430ドルと低中位所得国(1046〜4095ドル)に位置付けられている。しかし、21年の比の国内総生産(GDP)伸び率が5.6%に上昇したことや、22年もさらなる成長が予想されることなどから、ドゥテルテ政権が目標としていた22年中の高中位所得国(4096〜1万2695ドル)入りが実現する可能性が取りざたされている。
しかし、イボンは比の経済成長がサービス業に偏り、過去70年にわたり農業と製造業を取り残したまま成長を求めてきたいびつなものであると指摘。国内総生産に占める割合でみると、農業は1946年には40.4%を占めた主要産業であったが、2021年には9.6%に縮小。ドゥテルテ政権になってからの17〜21年の伸び率は平均1.2%で、1940年代以降の平均伸び率3.8%の3分の1にしかすぎない。また、20年の国内総生産に占める製造業の割合は18.6%で、1950年に記録した18.1%以来となる低い水準だった。製造業のGDP貢献率は21年には19.2%に上昇するが、これはマルコス政権期の1974年に記録した同29.1%というピーク時に比べるとかなり見劣りする。
一方、イボンによると、雇用情勢もドゥテルテ政権下で悪化した。2016年に240万人だった失業者数は21年には370万人と5年間で130万人増えたのに対し、就業者数は16年の4100万人から21年に4400万人へと約300万人増えたものの、そのほとんどは期間雇用やパートタイマーなどの低賃金労働分野で増えているという。また、政府統計でも貧困層は18年の2230万人から21年の2610万人へと400万人近く増えている。
格差も相変わらず深刻で、比の最も裕福な40一族の純資産が国内総生産に占める割合も2006年時の13%から21年には20%に拡大した。イボンは声明で「開発の指標として一人当たり国内総生産や国民総所得に頼り過ぎるのは良くない。それよりも安定した雇用や社会・公共サービスの充実、真の農業開発や全土の工業化などで人々の生活を改善することが重要だ」と、現政権や次期政権に対して人々の生活を改善するための政策実現を求めた。(澤田公伸)