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12月29日のまにら新聞から

露天掘り認める省令に署名 住民団体「裏切り行為」と批判

[ 1140字|2021.12.29|経済 (economy) ]

環境天然資源相は露天掘り禁止の通達を無効化する省令に署名。住民団体批判

世界最大級の露天掘り金・銅鉱山であるグラスバーグ鉱山=2013年8月、インドネシア(AFP=時事)

 シマツ環境天然資源相は23日、2017年から露天掘りを全国で禁止してきた同省の通達を無効化する省令第2021―40号に署名した。同省令は28日に公表された。

 省令によると、露天掘りは「世界的に認められた採掘手段で、地表近くや浅い鉱床を掘るため最も適した選択肢」とした上で、主要な鉱山問題は「その方法自体ではなく、廃棄物や尾鉱の管理に起因した事故によるもの」との見解を示した。

 また同省は「露天掘りの許可によって、新型コロナ禍での鉱業再活性化と農村部での雇用機会の提供につながる」との利点を強調した。省令は採掘権所有者に対して環境ベースライン調査・評価を義務付け、鉱山地質学局(MGB)が事業承認を行う際の判断材料にすること、MGBにも地域社会の健康や安全を危険に晒す可能性がないことを確認するよう求めている。

 鉱山商工会議所は28日、この決定により、「われわれの業界が投資促進や雇用創出、貧困緩和を通じて、コロナ禍の破壊的な影響からの国の経済復興に貢献できるようになる」との歓迎声明を出した。同会議所によると、米国やカナダ、オーストラリアをはじめ世界中で露天掘りが採用されている。

 一方、全国の鉱山で被害を受けた地域の住民らで構成されるアリャンサ・ティギル・ミナ(ATM)は同日、「これは環境天然資源省からの残酷なクリスマスプレゼントだ」とし「シマツ環境天然資源相とドゥテルテ大統領による実に皮肉な裏切り行為だ」と批判。「気候変動が破壊的な台風オデットをもたらした今、露天掘り再開は政府が近視眼的で誤った開発優先政策、欠陥だらけの経済アジェンダに重きを置いていることをあらわにした」とも断じた。

 フィリピンでは露天掘りによる重大事故が度々発生してきた。中でも1996年のマリンドゥケ州のマルコッパー鉱山事件では、鉱山廃水トンネル生の亀裂から有毒廃棄物が流出したことによるボアク川での鉄砲水と汚染で、住民4千人が避難を余儀なくされた。現在でもボアク町とモグポグ町は鉱山災害による環境破壊に悩まされているという。

▽政権による政策転換

 露天掘りをめぐっては、当初鉱山に反対を唱えていたドゥテルテ大統領が任命した故ジーナ・ロペス前環境天然資源相が2017年4月、環境保護の立場から国内における金・銀・銅、およびそれらの混合鉱石を採掘するすべての露天掘り式の鉱山の操業を禁止する通達を出していた。それに対し、鉱山企業の業界団体などは強く反発。ロペス氏は両院任命委員会で不承認となり辞任に追い込まれた。MGBによると、2021年第1〜3四半期の鉱業の総生産額は約1212億ペソで、そのうち大規模な金属採掘による額は1205億ペソに達するという。(岡田薫)

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