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1月12日のまにら新聞から

フィリピン経済を読む22 フィリピンの最低賃金体系 日本証券アナリスト協会検定会員 伊佐治稔

[ 1778字|2019.1.12|経済 (economy)|econoTREND ]

基本賃金と生活手当の2本立て

 フィリピンの現在の公定最低賃金は「基本賃金(Basic Wage)」と「生活手当(cost-of-living-allowance、COLA)」とで構成されている。

 COLA は休日出勤や残業等の手当、年末支給の13カ月目の給与(給与1か月分の年末法定ボーナス)の算出には含まれない。すなわち、COLAは、労働側からの賃上げニーズと、雇用者側の支払い負担抑制 ニーズ双方に配慮した緩衝材ともいえる。

 経済情勢などによって、基本賃金とCOLA両方が引き上げられる年もあれば、いずれか一方のみ引き上げられる年もある。さらに、COLAが基本賃金に組み入れられ、基本賃金のみに一本化されるケースもある。

マニラ首都圏の約半分の地域も

 2018年11月末時点の地域別公定最低賃金(基本賃金とCOLAとの合計額、基本賃金に一本化の地域もある)は表1のとおりである。最高水準であるマニラ首都圏の500〜537ペソは、実質最低であるミンダナオ島イスラム教徒自治区(ARMM)の270〜280ペソの倍近い水準である。マニラ首都圏に次いで高い地域は、中部ルソン、カラバルソン、北ミンダナオなどである。

公定最低賃金の単純比較では比は高水準

 なお、表4のフィリピン賃金生産委員会によるアジア各国賃金比較(18年11月の集計、米ドル換算値、マニラ首都圏は11月の改定数値反映へと修正)によると、マニラ首都圏の一般企業の一日当り最低賃金は9.34〜10.03米ドルとなる。同様に、セブを中心とする第7地域は5.85〜7.21米ドル、ダバオを中心とする第11地域は6.91米ドルとなる。

マニラ首都圏の9.34〜10.03米ドルは、タイの9.27〜9.93米ドル、マレーシアの7.34〜7.98米ドルをも上回り、公定最低賃金制度のあるASEAN諸国のなかで最高水準となっている。ちなみに、高賃金国であるシンガポールやブルネイは普遍的な公定最低賃金制度を有していない(シンガポールは特定業種のみ導入)。

 すなわち普遍的な公定最低賃金制度を有するASEAN諸国において、米ドル換算の単純比較ではフィリピンが非常に高く見える。

比の実質賃金コストは低水準

 単純な公定最低賃金比較では大半のASEAN諸国がマニラよりは安くみえるが、問題は、進出企業が公定最低賃金で雇用できるかということである。例えば、最初に進出候補地に挙げられがちなタイやベトナムなどは、労働力需給が逼迫、労働者の確保が難しくなっている。確保できても、実際の支払い賃金は公定最低賃金を大幅に上回るというのが実情である。これに対して、労働力、特に若年労働層の豊富なフィリピンにおいては、一般労働者などは最低賃金で確保することが依然可能であることから、実際の月額賃金比較においてはむしろ割安となっている。

 例えば、日本貿易振興機構(ジェトロ)のアジア主要都市の投資関連コスト比較最新版において、ワーカー(一般工職)の月額賃金水準は、マニラの237米ドルやセブの199米ドルに対し、シンガポール1,630米ドル、バンコク378米ドル、クアラルンプール(KL)356米ドル、ジャカルタ324米ドル、ハノイ204米ドルとなっている。エンジニア(中堅技術者)は、マニラの387米ドルやセブの263米ドルに対し、シンガポール2,971米ドル、KL784米ドル、バンコク699米ドル、ジャカルタ494米ドル、ハノイ420米ドルである。すなわち、マニラは、ASEAN主要国首都のなかでハノイとともに最低水準であり、公定最低賃金順位とは大きく異なっている。セブはさらに低水準である。

 このように、人口が2014年に1億人を突破しその半数が23歳以下という若い国フィリピンの労働供給力は豊富であり、実質的な賃金は割安である。近年の経済成長率がASEAN主要国最高水準となっても、労働組合組織率が低水準なこともあって、賃金上昇圧力は比較的穏やかである。最低賃金でどの程度の雇用が可能か、社会保障など法定経費の安さ、英語力を含む質の高さ、親日度などを勘案すると、フィリピンでの実質的な雇用コストは安く、単純な最低賃金比較とは全く異なると言えよう。

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