手作りペーパーセンター
フィリピン和紙の誕生間近
「掃除しかさせてもらえない時期もありました」。フィリピンの紙すき工芸界の第一人者、ロレト・アビラドさん(37)は、苦しかった研修時代を時々思い出すという。越前和紙の産地として有名な福井県今立町で、一九九七年十月から約三カ月間、紙すき技術の研修を受けた。現在、マリキナ市の職業訓練センターで紙すきの技術を教えているほか、「手作りペーパーセンター」(パサイ市・インターナショナル・トレード・センター内)で実演やセンターの運営に携わっている。
ペーパーセンターは一九九三年十一月、全国の手作りペーパー製造社や輸出企業など百社余りの企業連合体が設立。「和紙の原料、マニラ麻、ガンピの原産地であるフィリピンに紙すき技術を伝えよう」と今立町の伝統工芸師、岩野平三郎さんらが援助して「すきぶね」や「すきだ」など紙すきに必要な道具を提供し、実習室も造った。
フィリピンの手作りペーパーは、日本の和紙とは異なり、ボリューム感のあるゴワゴワとした厚い紙だ。九六年ごろまで、フィリピン人の多彩なデザイン力で加工された小箱やランプシェードが「環境に優しい」エコロジーのブームに乗り、日本やヨーロッパなどでヒット商品になった。しかし、最近は需要がめっきり減ったという。
ロレトさんによると、マニラ麻とガンピを原料に作られる紙は、どうしても段ボール紙のように厚くなり、用途が限定される。行き詰まった手作りペーパー産業を打開するには、和紙に似た柔らかな透明感のある紙を作るしかない。しかし、それにはどうしても和紙の原料として使われるクワ科のコウゾが不可欠だという。
手作りペーパー産業の育成を図っている日系の貿易会社が現在、ラグナ州マビタック町の十三ヘクタールの土地で、コウゾの栽培を始めている。既に日本の工芸師からも「合格点」をもらったという。
エンジニアの職を捨て、芸術家に転向したロレトさんが、日本で学んだ「流しすき」の技術からフィリピン独自の「和紙」が誕生する日も近い。
ペーパーセンターの開館時間は毎週月|金曜日が午前九時|午後五時まで、土曜日は午前中のみ。事前に連絡すれば、紙すきも体験できる。問い合わせは、ペーパーセンター(八三一・二二〇一)まで。 (上野洋光)