若い才能とエネルギーで熱気 アニメーターワークショップ開催
ダバオ市SMXコンベンションセンターでアニメーターワークショップが開れ、約100人が参加
2024年11月30日、ダバオ市SMXコンベンションセンターにおいてアニメーターワークショップが開催された。主催は在ダバオ日本国総領事館。東映アニメーションフィリピンの東伊里弥代表取締役(61)、アポロ・アニョヌエボ 同社プロダクショングループマネージャー(55)がマニラより招聘され、ダバオ市からは約100人の学生や若い大学教員が参加し若い才能とエネルギーで会場は熱気を帯びた。
イベントを発案した石川総領事は冒頭挨拶で「日本語を学習するフィリピン人の多くが、アニメを好きと知りアニメのイベントをやりたいと思っていた。今日は希望者が多く、人数制限した。今日来られた人はラッキーでした」と明かした。また、ドラゴンボール、ワンピース、セーラームーンなど東映の作品の多くがフィリピン人によって制作されておりアニメ産業における日本とフィリピンの深い関係を強調した。
基調講演者の東氏は、①現在制作中のアニメ②制作工程③日本と西洋のアニメの違い――について説明。現在、同社はONE PIECE、ドラゴンボールDAIMA、わんだふるぷりきゅあ!、おしりたんてい、逃走中 グレートミッション、の5作品が主な制作中のテレビアニメシリーズ。各作品とも毎週1本のエピソードを作製しているという。
東氏によると、1エピソードにつき4000~1万シートを作画し、それが5作品あるので1週間で最低2万シート、年間100万シート以上になること、そのうちフィリピンで70~80%(70万枚以上)を作画していることを明かした。アニメの制作は多くの人の協力で成り立つことや、具体的に同社では160人の正社員と約50人のフリーランス合わせて210人が作製に従事していることも紹介された。
▽三つのプロセス
さらに、東氏は、アニメ制作の工程を三つの主な段階である、プリプロダクション、メインプロダクション、ポストプロダクションを解説。プリプロダクションは、マーケティング戦略、脚本、絵コンテ、キャラクターデザイン・人物の特徴などを決めていく作業が含まれる。メインプロダクションでは、先ずキーアニメーションと呼ばれる主なレイアウト構成や動きを滑らかにするIn-Betweenと呼ばれる作画、そこに背景や彩色、特殊効果が追加されるという。ポストプロダクションでは、編集作業や音響効果、バックグラウンドミュージックなどが挿入される。編集は単なる繋ぎ合わせではなく、キャラクターの動きや、興奮を呼び起こすパフォーマンスにするタイミングをとる感性が重要。入れ替えたり、大胆に捨ててしまうこともあることを説明された。
なお、フィリピンではレイアウトから彩色までのメインプロダクションを行っており、プリプロダクションとポストプロダクションは行っていないとのことだった。
▽アニメに関する日本と西洋の違い
一方、東氏は、アニメに関する日本と西洋の違いを紹介した。主な違いは、①録音のタイミングが日本ではアニメ制作後なのに対し、西洋では先に録音し作画のガイドとする②録音方法が日本式では全員で同時に録音するのに対し、西洋では声優は個々に録音する③ 日本では絵コンテアーティストとディレクターが同じ人なのに対し、西洋では異なる人が担当する④日本では60年のアニメの歴史の中で、短時間のスケジュールで製品を作り出すために、枚数を節約し動きが無い絵を使う技術を蓄積してきた――などが大きな違いだと説明した。
最後に東氏は「関心のある人は履歴書を出して」とメアドを映し出し、会場がざわめく一幕もあった。
▽作画セッションで才能の片鱗
続いて、セーラームーンクリスタルやドラゴンボールスーパーのキーアニメーターを担当したアポロ氏が作画セッションを担当した。先ず自身が監督しチームが10年前に制作した短編アニメを参加者に見せ、鑑賞後には拍手が起こった。
作画セッションでは紙と鉛筆を使って前・横・後方からキャラクターを描く実習、またボクサーを題材に動きのある描き方等も指導。とてつもない集中力で描き続ける人、オリジナルキャラクターを描く人、課題を終え別のイラストを描く人、年季の入った道具一式を持参する人など参加者たちは、それぞれ才能の片鱗を示していた。
質疑応答では、19歳の大学生のリゼルジョイ・バアイさんが「アーティストになるには、どうしたら良いか」と質問したのに対し、アポロ氏は「とにかく描いて描いて練習をすること」と回答し、努力の大切さを伝えた。
▽イベント継続求める声
ワークショップについてアポロ氏は「過去10~15人のワークショップを行ったことがあるが、このような多人数は初めてで素晴らしい経験になった。若い人に刺激を与えられて嬉しい」とコメントした。
イベントを主導した織田副領事は「もともとは石川総領事がフィリピンの若い人の日本語の学習意欲とその理由として日本のアニメ人気を認識しておられ、私も実際にダバオ市内で若い人たちの会話からアニメのセリフが聞こえきたり、街の若者の携帯からアニメの音声が聞こえてきたりして不思議なほどアニメが身近に感じられる社会だと実感していた。そこでアニメ企画が出来ないか考え東映さんと練って実施した」と語った。
東社長は「アニメの世界は奥が深い。作品を作れば作るほど好きになりはまる要素がある。日本のアニメが注目された理由は、心の奥底を描き出しているところがあるからだと思う。もし、アニメづくりをやるなら喜び、悩み、悲しみ、怒りを掘り下げて、訴えかけるようなアニメを作って欲しい。あと、アニメを作るには、アニメ以外の表現のジャンル、たとえば映画や絵画、小説やポエム、歌や音楽にも興味を持ってもらいたい。素敵なアニメーションを作るには、その人がどれだけアイデアの引き出しを持っているか、物事を感じる感性の幅をもっているかで変わってくる。またみなさんと一緒にアニメが作れたら嬉しい」と感想を述べていた。
参加者の一人、大学生のマリジェ・サンペドロさん(24)は「日本のアニメはアクションだけでなく感情も描いているから好き。西洋に比べ価値観を反映していると思う。アニメは6歳から見ているが、絵も好きで描いている。イベントではいろいろと学べることに興奮した」と満足した様子だった。
マーク・アンジェロさん(24)は「楽しかった。アニメの経験が出来て勇気づけられた。またここで将来同じようなワークショップを開催してもらいたい」と感激していた。他にも来年以降も本イベントの継続を期待する声が聞かれた。ありそうで無かった日本文化のアニメのワークショップは、芸術や技術、ビジネスや雇用機会といった多面的で密度の濃い画期的なイベントとなった。(太田勝久)