名所探訪「トーマスムラト通り」
首都圏屈指の飲食店街
エドサ通りを走る首都圏鉄道(MRT)のGMAカムニン駅を下車、テレビ局GMAが面するティモッグ通りを西に向かって約一キロ進むと、トーマス・ムラト通りに入る。南側に目を付けると小ぎれいなレストランが立ち並んでいる。歩道には、高さ三メートルほどの街灯が十メートル間隔で設置され、夜ともなると、レストランのネオンとマッチした街灯の明かりが通りを彩り、雰囲気を盛り上げている。首都圏でも屈指の飲食店街として人気を集めている。
フィリピン料理に和食、中華、イタリアン、ベトナム、タイ、メキシコとほぼ世界を網羅する料理店が軒を連ねている。また、ショーウインドーにケーキやクッキーが敷き詰めた古風なレストランが客の目を引き止めている。
テレビ局GMAやトーマス・ムラト通りの北側行き止まりにそびえ立つテレビ局ABS・CBNのビルが近いためか、この通りの周辺はよくテレビ番組の撮影現場として利用され、休日にふらっと通りかかると思わぬ芸能人に出会えることもある。
レストラン街形成の起源は、一九七三年のステーキ専門店「アルフレッド」の開店。元々、トーマス・ムラト通りに交差するティモッグ通りで一九六八年に創業、五年後に移転した。
それから数年内に同業のステーキ屋三店が相次いで進出した。地元住民らに「ステーキ通り」の愛称で親しまれていた。一九八〇年代に入ると、その賑わいに便乗してイタリア料理店やカフェなどが立ち並び始め、二〇〇〇年ごろには現在の七十店舗規模にまで拡大した。
現在、老舗のステーキレストランで残っているのはアルフレッドだけ。上院議員だったころのアロヨ大統領やエストラダ前大統領なども常連客だったという。
この通りは主に襟付きシャツを着たビジネスマンや、車に乗ってやって来るカップルなどが目立つが、学校帰りの大学生らがビリヤード場にたむろしている姿も見られる。
最も目に付くのはカフェ。多くはチェーン店だが経営者が独自のこだわりを見せている店もある。そのうちの一店「Kopi Roti」(コピィ・ロティ)をのぞくと、シンガポールを本拠とするフランチャイズ店で、八月四日にオープンしたばかりだった。
経営者ウィルソン・テクソンさん(50)がシンガポールで経営方式を学んで比に輸入した第一号店。カウンター八席、テーブル二席という小ぢんまりとした店内。カウンターに座ってコーヒーを頼むと、練乳が底に沈んだ甘い一杯四十五ペソのコーヒーが出てきた。
さらに通りを進むと、スペイン語で「本屋」を意味する黄色い看板「Libreria」が目に飛び込んできた。店内には、古びたピアノ一台が置かれ、読書好きのオーナーが選んだ歴史、文学、ビジネス書、女性問題などの本が棚に並び、本屋とカフェが一緒になっている。
店長のチート・フローホさん(50)は「たいがいの客は音楽や店の雰囲気を気に入り、常連になってくれる」と誇らしげだった。
レストランの大半は夜十一時には閉店。夜の賑わいは意外に早く終わる。(水谷竹秀)