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3月13日のまにら新聞から

バクララン違法占拠モスク

[ 1256字|2005.3.13|文化 スポーツ (culture)|名所探訪 ]

イスラム教徒の現状を反映

 パラニャーケ市バクラランのマニラ湾沿いに広がる公有地公団(PEA)の埋め立て地。開発が進まずに荒れ放題の野原の一角に昨年、突如、モスク(イスラム寺院)が出現した。頭頂部に三日月を載せた金色のタマネギ型ドームが強い日差しを受けて照り輝くさまは、まさにアラビアンナイトの世界。思わず、引き込まれるように足を向けた。

 ロハス通りと埋め立て地を隔てる十メートルほどの水路には、木橋が架かっている。幅は一メートル足らずで、ぐらぐら揺れてまるでつり橋を渡っているかのよう。別世界に足を踏み入れようしている実感がふつふつとわいてきた。橋を渡り終えると、遠目には気付かなかったが一面ごみだらけ。違法占拠のスラム街がモスクを取り囲むように広がっていた。

 地をはうかのように密集する住居は、薄い木の板やビニールシート、米袋などで四方を囲み、トタンの屋根をかぶせただけ。竹や木の棒を立てて電柱代わりに使っている。飛び交うハエの多さが目に付く。モスクも近づくと、塗装されているのはドーム部分だけでコンクリートがむきだし。入り口部分はトタンで覆われているだけで、各所に鉄骨が飛び出していた。

 イスラム教徒篤志家の寄付で建てられたモスクの正式名は「イスラミック・グランド・モスク・センター」。許可を得て中に入ると、床にはタイルが敷き詰められ、壁や柱は白や茶色で塗装されており、荘厳な雰囲気が漂った。イスラム教の安息日、金曜日の昼の礼拝では、ひげを生やし、イスラム帽に極彩色の腰布を身に付けた男性二百人ぐらいが、真剣な表情で頭を床にこすりつけ、祈りをささげていた。

 イスラム教の教えに従い、男女が互いを気にして祈りに集中しないことがないよう、白や黒、ピンクの華やかなチャドルを全身にまとった女性たちは、後部の布で仕切られた女性専用の別室で礼拝に参加。

 同モスクの事務局長、オトワ・クアロさんによると、モスクの建設は一九八九年に着手。十五年の歳月をかけて昨年ようやくドーム部分が完成した。公有地に無許可で建てており、明らかに違法占拠。だが、クアロさんは「モスクはわれわれの拠り所。埋め立て地には政府が土地を提供してカトリックの教会が建てられており、われわれイスラム教徒にも土地を提供してもいいはず」と主張した。

 最近、モスク事務局は大統領府にモスクを含む周辺一帯の土地約千平方メートルの無償供与を求める嘆願書を提出したという。

 同モスクを囲むように住んでいるのは、ミンダナオ地方中部南ラナオ州出身の住民約五百世帯。モスクとロハス通りを挟んで反対には著名なカトリックのバクララン教会があり、ほぼ半数が教会周辺の露店で生計を立てている。

 アジア最大規模とされ、終日信者や露天商でにぎわうバクララン教会と、スラム街の中にある違法占拠のイスラミック・グランド・モスク・センター。並び立つ二つの宗教施設は、国民の九割近い圧倒的多数派のカトリック教徒と少数派、イスラム教徒の現状を如実に映し出しているかのように思えた。   (湯浅理)

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