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8月8日のまにら新聞から

メガモールの画廊街

[ 1242字|2004.8.8|文化 スポーツ (culture)|名所探訪 ]

芸術眼を磨く場

 マンダルーヨン市のシューマート(SM)メガモール四階の北端。百メートルほどの通路には「アートウォーキング」と呼ばれる一画がある。首都圏で名のある画廊が十五軒ほどこじんまりとしたスペースを設け、油絵や水彩画、彫刻作品から画材までを扱っている。作風もそれぞれ具象画や抽象画、現代的なものから土俗的なものまで独自のスタイルを表現した作品を並べており、若者や家族連れが三々五々透明ガラス越しにこれらの作品を眺めている。

 画廊街誕生のきっかけはSMメガモールが開店した一九九二年にさかのぼる。発起人はマカティ市で画廊「フィナーレ」を経営していたエビータ・サレナスさん。ケソン市やサンフアン町などにあった老舗画廊の店主らを誘い、建設される比最大のショッピングモールの一画にそれぞれの画廊スペースを出店する案を練り上げた。そして当時SM社長だったハンス・シー氏に直談判。メガモールの四階を家具や家庭調度品、美術品などの専門店街にしたいと考えていた同氏の思惑と合致し、画廊街構想は実現した。

 「ギャラリー・ヘネシス」の美術マネジャーのモネッテ・アルバレスさんは「以前の来店者は美術愛好家にほぼ限られていた。モールに出店したら、普通の買い物客がぶらりとやってきて気に入った作品があったら買っていく」と説明してくれた。「最近も国際金融機関勤務の日本人駐在員が一枚五万五千ペソの花を描いた絵を買ってくれた」という。この店では複数の絵画を自宅へ配達しインテリアとのコーディネイトを基に部屋に合うよう作品を見繕ったり、見栄えの良いよう絵画を壁に取り付ける無料サービスも行っている。

 オープンから十二年を経た画廊街の出店メンバーの顔ぶれもかなり変わった。しかし、人目に触れやすいここに作品が展示されることは、画家にとっての登竜門なのだ。「ギャラリー・ヘネシス」のアルセリ・サラス社長は文化庁の諮問機関、画廊委員会の代表を務め、「画廊は芸術眼を磨くとともにビジネスの場でもある」と割り切っている。現在、六人の画家と専属契約を結び、作品を店に展示している。彼女は別の場所に借りている巨大な倉庫に五千枚の絵を常時保管している。収集家として鍛えた鑑識眼で、画家への注文は歯に衣着せない厳しさという。

 画廊街の一画にはメガモール直営の展示スペース「アートセンター」がある。五十平方メートルほどの展示用空間が一定期間貸し出され、さまざまな芸術家の個展や美術コンペなどが毎日のように開催されている。美術愛好家や芸術家に加え、一般の買い物客なども無料で芸術性の高い作品を鑑賞できる。

 サラス社長は毎年八月に水彩画だけを対象とした国内唯一の絵画コンペ「クーライ・サ・トゥービック(水にある色)」をアートセンターで主催している。今年も今月十四日から七十人の国内を代表する画家が出品して開催される。「水彩画は湿度の高いフィリピンによく合う。間違いが許されないので油絵より難しく真剣勝負の芸術だ」と魅力を語った。(澤田公伸)

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