名 所 探 訪 気象庁天文台
南十字星 見ましたか
ケソン市にあるフィリピン大学ディリマン校構内の小高い丘に小型のドームが建つ。気象庁天文台。一九五五年から太陽の黒点や月を観測しているが、一般市民にも年中無休で開放されている。
ケソン市がまだ首都だった当時、同市の中で比較的標高の高い天体観測の適地として、ここが選ばれた。いまでも日が暮れると、南の方角にマカティ市の明かりがわずかに見えるだけで、辺りは首都圏とは思えない暗やみだ。
古びたドアをきしませながらドームの中に入ると、直径五メートルほどの室内にレンズの倍率が六二・五倍の望遠鏡が据えられていた。
金属板を重ね合わせたドームの「天井」の開閉も、望遠鏡の向きを変えるのも、すべてが手動。機材は何一つ、建設当時と変わっていないそうだ。レンズの口径は十五センチ。日本の国立天文台が昨年五月、ハワイ島マウナケア山頂に設置した口径八・二メートルの光学赤外線望遠鏡とは比較のしようもないミニ望遠鏡だ。
だが、十四億四千万キロ離れた土星の輪、八億三千万キロ離れた木星の衛星のうちイオ、ガニメデなど四つの星や渦巻き模様もくっきり見える。四十五年前のクラシックな天文台だけに、かえって天体へのロマンをかき立てられる思いがする。
この天文台は、天体への関心を市民に広げよういう教育的な側面を持っている。学生や家族連れなどが月に二百人ほど訪れるそうだ。
事前に電話をすると、その夜によく見られる惑星を教えてくれる。フィリピンでは、二月から五月の間が最も天文観測に向いていると職員は話している。
流星群が現れる時は、特に見学者が多く、天文台までの坂道には、車の長い列ができるという。
同天文台は昨年七月、倍率九六倍の望遠鏡を購入した。ところが、ドームの建設予算がないため、月食などのときだけ屋外に組み立てている。約六万四千の星がコンピューターに登録されて、番号を入力すれば、自動的に星を探し当てることになっているが、まだ実用化されていない。
ドームから出ると、「プラネタリウムより断然面白いでしょ」と、係員のカルメリタ・クックさん。天頂にオリオン座、南の低い空に南十字星など「満天の星」がまたたく。暗やみの中でおしゃべりをしていると、長く尾を引いて、流れ星が東の空に消えていった。(川村純子)