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5月22日のまにら新聞から

医療従事者は中立であるべきか マルコス時代の殉教者たち

[ 812字|2020.5.22|社会|新聞論調 ]

 ボビー・デラパス殺害事件については、活動家だった両親に幼いころから聞かされていた。デラパス医師は妻のシルビア医師とともにマルコス政権下、サマール島の農村に赴任し、住民たちの貧困と人権抑圧の状況を目の当たりにする。夫妻は病人を時には無料で診察し、農村に基礎的な衛生教育も教えた。2人の活動は比共産党の軍事部門、新人民軍とつながりがあるのではないかと当局から疑われ、1982年4月23日にカトバロガンにある診療所で銃撃され、翌日に死亡した。彼とフアン・エスカンドール医師の2人はこの時代の医療従事者の殉教者だ。

 筆者はこの事件を思い出すたびに、医療行為が政治から切り離されることはないことを思い知らされる。最近、医科大学と、医学生らの団体が、放送停止になったABS―CBNに関する声明を出した。この声明を巡ってソーシャル・メディアでは多くの医師や医学生たちがコメントを投稿した。幾人かは放送局の閉鎖に伴う従業員らの雇用問題や、情報への自由なアクセスが阻害されることなどの問題提起をしていた。しかし、中には「医師は医療に関係のない問題について中立であるべきで、政治的であってはならない」との声もあった。とても残念である。公平かつ機能的な医療を追い求めることは、その他の社会問題と切り離すことはできないからだ。

 パンデミックにあって医療従事者がまず向かうべきは患者であるのは当然だ。しかし、患者を生み出すシステム自体、貧困や失業の問題、医療へのアクセスや基本的ニーズを拒む壁、といった社会的背景とそれらを作る政治的判断を見落としてはならない。妻のシルビア医師がかつて雑誌インタビューで述べている。「あなたは選択しなければなりません。不正義のはびこる社会で我慢して

暮らし、その社会を後世の子どもたちに残すのか。それともこの社会をより良いものにするために変革に身を投じるのか」と。(18日・インクワイアラー、カイ・リベラ)

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