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12月30日のまにら新聞から

悪化する比の人権状況 活動家包囲の赤タグ付け

[ 1878字|2020.12.30|社会 ]
農業従事者組合連合のフローレス議長=11月30日、首都圏ケソン市のフィリピン大で岡田薫撮影

 今年、左派系政党アナックパウィスのランデール・エカニス代表がケソン市の自宅で殺害され、ネグロス島では殺害予告を受けていた人権活動家のザラ・アルバレス氏やメリローズ・サンセラン医師が殺された。人権を擁護する人たちを取り巻く状況は全国で悪化の一途をたどっている。

 ドゥテルテ政権を批判する個人や市民団体を、結成52年を迎えた比共産党と結び付けて「共産党の偽装組織」「新人民軍(NPA)」と名指しし、メンバーの逮捕や殺害を呼びかける「赤タグ付け」(共産主義者とするレッテル貼り)も吹き荒れている。ドゥテルテ政権と共産党側との関係悪化に伴う現象だ。

 

 ▽赤タグは昔から

 農業従事者組合連合(UMA)のアントニオ・フローレス全国議長(72)は、比における人権の歴史を体現する人物だ。ダバオ市の貧しい農家の出身で、1983年にダバオ農民協会を組織。85年に比農民運動(KMP)が結成されると、その全国顧問を兼ねながら、ダバオ市で農民の権利や政府による保護を訴える活動を続けた。

 しかし、アロヨ政権下の2000年11月には、国内で初めて「反逆罪」が適用され、逮捕された。自分には全く身に覚えのない「NPA司令官」にされていたことに驚いた。「自宅で深夜に逮捕された。山中に住んでいるわけでもなく、どこが司令官だと思った」と回想する。

 フローレス氏は1年間の収監後に嫌疑が晴れた。しかし、04年には同市で車での移動中、バイクに乗った2人組から射撃された。現在も多用される暗殺方法だ。幸い無傷ですんだが、「国軍兵士の犯行だ」と確信している。命の危険を感じ、07年からは活動拠点を首都圏に移している。

 ▽活動家包囲網

 ドゥテルテ大統領は、共産党側との交渉決裂後の2017年12月に大統領布告第374号で共産党とNPAをテロ組織に指定。司法省は18年2月にはマニラ地裁に、共産党の最高指導者ホセ・マリア・シソン氏や国連特別報告者、カトリック教会関係者ら649人を「テロリスト」に指定する上申書を提出した。

 「テロリスト」の解釈を拡大し、令状なしでの逮捕も可能にするテロ防止法も今年6月30日、強い反対運動の中で成立。司法相をトップにする各機関協力のテロ防止委員会(ATC)も設置された。

 ATCは12月9日、「共産党とNPA、その支持者、擁護者」をテロ関連組織に指定する第12号決議を公布。テロ防止法にも基づき、ジョクノ中銀総裁が会長を務める資金洗浄防止協議会(AMLC)は23日、共産党とNPA関連の銀行口座や資産の20日間の凍結を承認した。

 ▽女優にも脅し

 人気女優のライザ・ソベラノさん(22)も今年10月、赤タグ付けの被害に遇った。女性政党ガブリエラの青少年部門が呼び掛けたオンラインセミナーにゲストとして出演。女性や子どもへの暴力をテーマに自身の経験を含めて涙ながらに語った。

 国軍のアントニオ・ペルラデ中将は、そのライザ氏に「共産主義者に近づけば、2017年に山中で死亡した女性NPAと同じ結末をたどるだろう」と警告した。国軍は同党を共産党偽装組織と名指ししていた。

 社会奉仕活動に力を注ぎ、社会問題にも積極的に発言する女優のエンジェル・ロクシンさん、ミスユニバースのカトリオーナ・グレイさんにも、同様の警告や「共産主義者」などの中傷は及び、11月には上院公聴会でも問題の一端が取り上げられた。

 ▽NPAに加わる人も

 同中将が広報を務め、実際にウェブサイト上で多くの赤タグ付けを行っている共産主義武装紛争撲滅全国タスクフォース(NTF─ELCAC)に対する21年予算枠として190億ペソが計上されたことに対する批判も出ている。

 農民ら約20万人が加盟するというUMAのフローレス全国議長は「UМAも共産党やNPAに関与、もしくはその偽装組織と見なされているが、私たちはそうした組織に属していない。政府から違法性がない団体としての承認を受けて活動している」とした上で「中には、政府の無策と権利侵害に、これ以上現状を受け入れることができない個人がいることも事実だ」と話した。

 11月には南スリガオ州の山中で、衛生班員としてNPAに参加していたジェビリン・クリャマットさんが国軍に殺された。クリャマットさんの母は、政党バヤンムナの下院議員。同議員は娘の死後、ビデオ声明で「先住民に対する国軍などの暴力や虐待を目にしてきた娘が、NPAに入ったことに驚きはしない」と声を詰まらせた。(岡田薫)

社会

接種めぐり政府の説明迷走 価格や交渉主体が不透明

[ 1204字|2021.1.18 ] 無料記事

【上院公聴会でワクチン接種めぐる価格、時期、交渉主体などの政府説明が迷走】 上院で先週2日間にわたり政府のコロナワクチン接種プログラムに関する公聴会が開かれた。出席した政府のワクチン政策責任者、ガルベス大統領補佐官が質問に十分答えられず、回答が何度も迷走。予想外の展開となり、ラクソン上院議員がさらなる公聴会の実施を求めるなど、ワクチン接種に関する論戦が長期化しそうだ。17日付英字紙スターが報じた。 ▽政府間交渉なし?  ラクソン議員は16日までに「政府は回答を避けている。さらに公聴会を継続するよう求めることも可能だ」と述べている。同議員によると、ドリロン上院議員が「中国製ワクチン確保で比政府は誰と交渉しているのか」と質問した際、ガルベス大統領顧問は「香港にいるヘレン・ヤン・シノバック社社長と直接、話をしている」と答え、比中の政府間交渉ではなく、民間製薬企業と直接交渉していることを明らかにした。これは公聴会に出席したドゥケ保健相も認め、政府間で交渉を進めていると理解していた上院議員の間に困惑が広がった。  また、世界保健機関(WHO)が主導するワクチンの公平供給に向けた共同購入に関する国際枠組み「COVAX(コバックス)」について、政府側は公聴会で最初、「かなり割引された価格になる」としたが、後に「無料になる」と答えるなど食い違いがみられた。民間企業や自治体が主導するアストラゼネカ製ワクチンの購入に向けた一括契約についても、民間企業は「接種1回5ドル」としているが、ガルベス補佐官は「守秘義務契約のため答えられない」と回答を拒否、上院議員らの不評を買った。 ▽購入予算に疑念も  さらにワクチン入手時期について尋ねたアイミー・マルコス議員の質問に対し、ロケ大統領報道官がシノバック製のワクチンが2月20日までに確保できると表明しているにもかかわらず、ガルベス補佐官は「(契約はまだ結ばれておらず)今から撤回することもできる」と答えたためマルコス議員は「私は本当に混乱している」とコメントしたという。  比側でワクチンを調達する主体についても、政府側は「地方自治体や民間企業が直接調達する」と答えたが、後に輸入・流通ルートについて確認すると、ワクチンが関税庁を通関した後に保健省がワクチンを一括で取り扱うことになっており、地方自治体や民間企業による流通への介入は認められていないとした。  ラクソン議員によると、比はコバックスの枠組みで4400万回分のワクチンが無料で確保できる見通しのほか、地方自治体が1400万回分、民間企業が850万回分のワクチンをそれぞれ調達する契約をすでに結んでいる。  政府は集団免疫を獲得するために国民の7割ほどへのワクチン接種を目指しているとされるが、ラクソン上院議員は「なぜ政府は残りの必要分のワクチンのために莫大な予算を計上しているのか。なぜワクチン価格を表明しないのか」との疑念も述べている。(澤田公伸)