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11月8日のまにら新聞から

古くて新しいカリワダム問題 大統領の権限は先住民のために

[ 755字|2019.11.8|社会 (society)|新聞論調 ]

 首都圏の深刻な水不足の解決策として、ケソン州とリサール州にまたがるカリワダム建設計画が大きな議論になっている。建設予定地に暮らす先住民族のレモンタード族とドゥマガット族の人々は、居住地が水没するため、ダム建設に反対の声を上げているのだ。

 しかしドゥテルテ大統領は「最大多数の最大幸福」を優先させるため、中国が187億ペソの貸付けに同意したこのダム建設事業の実施に向け「特別な権力」を行使する用意があるとも警告している。

 カリワダムはそもそも、上流のライバンダムを含む包括的な水源開発計画として、1970年代に当時のマルコス政権が提案したものだった。その後ベニグノ・アキノ政権下で、日本の資金によるもっと規模を縮小した計画が決定されたが、実現しなかった。

 現政権は元の規模で建設するために中国からの融資を求めた。これが、現在問題になっている大規模なカリワダム建設計画だ。

 環境への影響も問題だ。ダムの建設予定地は野生動物の保護区域であるカリワ流域森林保護区の一部だからだ。建設事業の影響を受ける森林は1万2千ヘクタールの広さになり、172種もの植物が確認されている。フィリピンワシなどの希少生物の生息域も破壊される。

 首都圏に十分な水を供給するために、地下水をくみ上げる井戸に加え、ラグナ湖や既存のワワダムの利用など他の方法も開発されつつある。民間の開発業者は雨水利用の設備設置も義務付けられている。そのうち海水の淡水化も可能になるだろう。

 しかし、まずカリワダムの問題を解決しなくてはならない。大統領は、ダム建設のために権力を行使すると述べたが、住む場所と故郷を失おうとしている先住民族の人々のためにも、その大統領としての権力をいかに使えるのかをよく考えるべきだ。(4日・ブレティン)

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