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2月25日のまにら新聞から

産む産まない1─比人の選択─ 非合法手術で緊急搬送続く 産院で行われる中絶後治療

人工中絶を法で禁止している比。新生児が生まれる病院では非合法中絶後の治療も

[ 1540字|2019.2.25|社会 ]
新生児と母親があふれるフロアの隅に並べられた中絶後患者ら用のベッド=首都圏マニラ市ホセファベリャ病院で冨田すみれ子撮影

 1人の女性が生涯に産む子の数を示す合計特殊出生率がフィリピンは2・7(2017年)とアジア諸国の中でも非常に高い。出生率の高さは比の今後の経済成長にとっては好要因とされる。一方で比は世界でも人工中絶を法で禁止している数少ない国の一つだ。比女性の「産む・産まない」をめぐる選択を産院の現状から探った。

 禁止されている中絶という選択をせざるを得ない女性たちも比には数多くいる。富裕層は香港やシンガポールなど海外の病院で中絶手術を受ける例が多いが、貧困層は安価ながら危険な中絶法に頼らざるを得ない場合が多い。

 そういった女性たちは、非合法の診療所での掻爬(そうは)手術や、欧米で認可されて比に密輸されている中絶薬や「パンパレグラ(生理を起こすの意)」と呼ばれる薬草を混ぜた液体を服用するほか、比伝統マッサージ「ヒロット」の施術を受けるなどさまざまな方法に頼っている。首都圏マニラ市のキアポ、バクララン両教会裏などで密輸中絶薬は1錠200ペソほどで手に入る。 

 そういった手段で中絶を行い危険な状態に陥った女性が最終的に訪れるのが公立病院だ。

 マニラ市のホセファベリャ病院では、出産後の母子たちで溢れる大部屋の片隅に中絶後患者が入院している一角があった。

 非合法中絶後の大量出血や感染症を起こした患者らで、ほぼ毎週、緊急輸送されて来る。時には搬送後に死に至るケースさえある。

 

 頭痛薬大量摂取で中絶も

 同病院の女性産婦人科医師(39)は「搬送後に死亡するケースは危険な道具を使った掻爬やヒロットによる堕胎での感染症など。中には頭痛薬のアスピリンを10錠飲んで中絶するという方法まで広まっている。どれも非常に危険」と話す。

 同病院では中絶手術は行わないが、首都圏内で最大級の産婦人科を持つため、中絶後治療の患者は受け入れている。その大半は既に子どもが複数おり、これ以上の子どもを望まない18〜30歳の貧困層。中にはレイプ被害者もいる。

 1歳児を含む5人の子どもがおり、友人からもらったパンパレグラで中絶したという入院患者(39)は「育てられない経済的事情があり中絶した。自分で決めたことだが悲しい思いでいっぱい」とつぶやいた。

 ほかにも10代での望まない妊娠や比人海外就労者(OFW)として海外渡航直前に妊娠が発覚、渡航機会を失いたくないと中絶を決めた者など「産まない理由」はさまざまだった。

 同病院の医師は「比で中絶は違法だが、治療に訪れた女性のプライバシーは守る。中絶の事実を警察などに報告することは決してしない」と話す。中絶後患者のベッドが出産後の母子と同じ大部屋内に置かれていることに関しては「院内に場所がなく仕方ないが、中絶後患者の気持ちを考え、治療自体は主に違う階の部屋で行うようにしている」という。

 中絶後治療に訪れた女性やそのパートナーには、避妊法などの講座が同病院では行われる。しかし、繰り返し中絶後治療に来る女性もおり「やるせない思いになる」とも語った。 

 

 医師に手術への強い抵抗

 中絶の合法化を目指す非政府組織ピンサンの調査によると、比では年に61万件の非合法中絶が行われ、うち危険な中絶で10万人が緊急入院、千人が死亡している。

 しかし、ホセファベリャ病院の医師は「ピンサンなどの活動は私も知っているが、比で中絶が合法化される日は遠いと思う。カトリック教会などの反対以上に医療関係者の抵抗が強いからだ」と話す。同医師によると、医師も多くがカトリック教徒で「中絶は殺人と考えている人が多い」。

 同医師も「たとえ合法化されても自分の手で中絶手術はやりたくない」と話した。(冨田すみれ子)

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