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内山安雄のフィリピン取材ノート

第3回 ・

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 ボルネオ島に近いフィリピンの南端、国境の島で、のんびりした日々を取材がてら過ごしていた。人口2千人ほどの小さな島で、観光も娯楽らしきものも、見事なまでに何もない。イスラム教の島ゆえに居酒屋はおろか酒屋の一軒もない。集落が海岸線に張りつくように広がっているが、歩いても十分ほどで突っ切ってしまう。

 何も見るものがないから、暇つぶしに山間部へと出かけてみた。そこで思いがけず愛らしくもユニークな猿を見かけた。

 海沿いの山の中を散策していた折のこと。たまたまココナツの採り入れに追われる農夫の一団に出くわした。天を突くように伸びたヤシの木に実ったココナツを採るのは骨の折れる仕事だ。少なくとも20〜30メートルの高さまで登るわけだから、ひとつ間違えば人命に関わる危険な仕事である。

もっと高い位置に実ったココナツを採りたいのはやまやまだが、人間が登ったのでは、幹がいつ折れるとも知れない。そこで重宝されているのがココナツ採りに名人芸を発揮する猿たちだ。

 「さあ、行け!」という農夫の掛け声に追われ、猿はするすると幹を駆け上がる。猿はココナツに手をかけると、地上にいる飼い主に、「これでいいのか?」と言わんばかりの顔つきでお伺いを立てる。飼い主は、それは小さすぎるだの、まだ熟していないだのと文句を言って首を横に振る。

 すると猿は他のココナツに触れて、これなら文句はあるまい、といった表情を見せる。飼い主がうなずくと、猿はここぞとばかりにココナツのツルに歯を剥き出してガシガシとかみつく。そしてココナツを前後左右に激しく揺すってもぎ取り、地上に叩き落とす。

 飼い主の農夫は、さらに高いところにあるココナツを採らせようとする。だが猿だって危険は犯したくないのだろう。あるいは人間にああせい、こうせいと命令されるのが面白くないのか、機嫌をそこねて枝の根元に座りこんでストライキを決めこむ猿も珍しくない。こうなったら人間サマがいくら地上から怒鳴っても、馬の耳ならぬ、猿の耳に念仏だ。

 しかし、働かざる猿は食うべからずとばかりに、飼い主は仕事を放棄した猿を兵糧攻めにする。いくら猿が掌を差し出して餌をねだっても、断固として何も与えない。腹をすかせた猿は、飼い主に追い立てられて再び椰子の木に登り、不貞腐れたような表情を浮かべてココナツ採りに追われるというあんばいだ。

 そんな愛らしい猿の姿を観察しているうちに、何もない島での1日が静かにすぎてゆくのだった。(続く)

(2013.9.2)

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