「日刊まにら新聞」ウェブ

1992年にマニラで創刊した「日刊まにら新聞」のウェブサイトです。フィリピン発のニュースを毎日配信しています。

マニラ
33度-24度
両替レート
1万円=P3,800
$100=P5870

4月10日のまにら新聞から

「主権への脅威に屈しない」 バタアン陥落82年式典で大統領

[ 1881字|2024.4.10|社会 (society) ]

バタアン陥落82周年式典で、マルコス大統領が「同志国と共に比の主権的権利を守り抜く」と決意を表明

バタアン戦の慰霊碑に敬礼するマルコス大統領(写真中央)とブラウナー国軍参謀総長(大統領の後方)。右は遠藤大使、左は米国のユーウィン臨時代理大使=9日、大統領府が公開

 太平洋戦争中、「死の行進」の契機となった旧日本軍によるバタアンの陥落から82周年を迎えた9日(勇者の日)、同州サマット山の霊廟(れいびょう)で、比日米の代表が戦没者を追悼するとともに、現代の脅威に対し連帯して対応する決意を示した。マルコス大統領は、南シナ海での中国による妨害行為が比公船を損傷させ、比海軍職員に負傷者を出すところまで発展していることを念頭に、「82年前とは形や程度が異なるとはいえ、われわれはいま同じように生存に関わる問題に直面している。われわれの主権的権利への脅威を予兆するものであり、実際に国民に身体的損傷を与えている」と指摘。その上で「こうしたことを比は決して容認しない。われわれは決して屈しない」と宣言した。

 大統領は3月に比大統領として初めて行った豪州議会演説でも、現在の状況を1942年にたとえ、「比は地域の平和を侵し、安定を侵食し、成功を脅かす行為の最前線に置かれている」とし、「比は決して降伏しない」と宣言。国防の決意を示している。

 82年前、収容所までの炎天下での長距離徒歩移動で7万を超える比米捕虜のうち、約7千~1万人が死亡したと記録される「バタアン死の行進」。大統領は、「『形式も理由も慈悲もない悲劇的悪夢』と歴史家に形容された死の行進で、われわれの兵士はマラリヤに冒され、酷暑の中、薬も食料もない状態で、殴打や処刑に脅されながら行進させられるという精神的にも肉体的にも極限の試練を受けた」と思いをはせた。

 その上で、「バタアン陥落は、記念するだけの過去の出来事ではない。現在、戦後世界のルールに基づく世界秩序の中で、『同志国』の支援を受けながら国民国家として将来に向かう決意を思い出させるものとなっている」と強調。「世界は複雑になっているが、絶対に屈してはいけない。われわれの平和、名誉、そして私たちの存在そのものを脅かそうとするあらゆる挑戦から身を引いてはらない 」と呼びかけた。

 ▽力による現状変更の阻止を

 遠藤和也駐比日本国大使は「約80年前、比日関係は戦闘の後残った灰燼(かいじん)のなかから始まったわれわれの先人は、大戦中の日本の行為に対する深い悔恨の念に基づき、二国関係を再建し、相互信頼を培ってきた」と振り返り、「日本国民は、現在そして未来の世代のため、戦争による荒廃を二度と繰り返さないことを決意している」と強調した。

 その上で、「東・南シナ海、台湾海峡を含むインド太平洋地域で複雑な安全保障環境に直面している」と指摘し、「共に数十年守り続けてきたルールに基づく世界秩序と海洋秩序を維持」への関与を改めて表明。「力による一方的な現状変更は決して許してはいけない」と力を込めた。

 比日米3カ国の協力については、「法の支配に基づく自由で開かれたインド太平洋の推進という共通の取り組みの象徴だ」と位置づけ、今週開かれる比日米首脳会談について「さらなる3カ国協力の推進の証明となる」と説明。「防衛、戦略的インフラ、サイバー、経済安全保障、エネルギー分野での協力の具体化を推進していく」と決意を表明した。

 さらに、「戦略的パートナー、同盟国、友好国として地域の平和と繁栄を守る決意を改めて確認すること。これこそが、82年前ここで起きた戦闘で亡くなった人々の魂に捧げられる最大の敬意だ」と述べた。

 ▽極めて特別な協力関係

 米国のロバート・ユーウィン臨時代理大使は「82年前米国人と比人は力を合わせて自由を守るためにここで戦った。勇者の日は、人間の魂の力と、暗黒の時代でも耐え抜く忍耐力を思い出させてくれる。数々の犠牲は自由の奪還に結実し、戦後、われわれは鉄壁の同盟を築いた」と述べ、大戦期の比米の連帯を強調。その上で「フィリピン開放から79年後の今日、かつて敵だった日本と、比米は極めて特別な協力関係を築いている」とし、昨年の比日米海上保安機関による初の共同訓練、3カ国国家安全保障担当高官会合、3カ国外相会談を振り返った上で、「今週バイデン大統領はホワイトハウスにマルコス大統領と岸田首相を招き、初の3カ国首脳会議を開く。深い歴史的な絆、強い経済関係、民主主義の価値、そして自由で開かれたインド太平洋(FOIP)という共通のビジョンに基づいて、パートナーシップを強化・促進する」と述べた。さらに、「1945年当時、比日米3カ国が現在のような特別な協力関係を築けると想像できた人はいなかっただろう」と強調し、3カ国の協力を拡大・深化させる決意を表明した。(竹下友章)

社会 (society)