「米イージス艦追い払った」 中国軍発表、米国は反発
米イージス巡洋艦が航行の自由作戦を実施。中国は同艦を「追い払った」と発表
米軍横須賀基地に司令部を置く米海軍第7艦隊のイージス巡洋艦チャンセラーズビル=全長172・46メートル=は11月29日、比中が管轄権を争う南シナ海南沙諸島近海で、14日の米中首脳会談以降初の「航行の自由」作戦を実施した。それに対し中国人民解放軍は「中国領海に侵入した米巡洋艦を追い払った」と発表。米海軍は「中国の声明は誤りであり、過剰で違法な海洋権益を主張するためのものだ」と応じた。
チャンセラーズビルは2014年に最新の防空装備(イージスシステム)の搭載を完了。同艦を含むイージス艦の派遣は中国が推し進める「接近阻止・領域拒否」(A2/AD)戦略への対抗策となっている。チャンセラーズビルは8月、米下院議長訪台を機に中国が台湾周辺で過去最大規模の軍事演習を行った後、中国の喉元である台湾海峡で航行の自由作戦を実施しており、中国にとって「因縁」の米艦。台湾を巡る米中緊張が南シナ海に波及し始めたことを印象付ける事案となった。
米国海事研究所=USNI、米海軍兵学校に本部所在=によると、人民解放軍南部戦区司令部は「米巡洋艦チャンセラーズビルが中国政府の承認なく南沙諸島近海に『不法侵入』したため、中国空・海軍が追跡・監視し、警告を与え追い払った」と発表。「米軍の行動は中国の主権と安全を著しく侵害しており、米軍が南シナ海で軍事的覇権を狙い、同海の安保リスクを高めていることの動かぬ証拠だ」と非難した。また人民解放軍はSNS(ウィーチャット)上の公式ページで「南部戦区司令部は引き続き厳戒態勢にある」とし、米国をけん制した。
それに対し米第7艦隊は「航行の自由作戦は国際海洋法と国際慣習法が認める合法的な活動だ。国際法が許す限り、すべての国が飛行、航行、活動する権利を有する。中国がどう言おうとも、われわれを妨害することはできない」と応じた。
先週訪比したハリス米副大統領は22日、南沙諸島に面するパラワン島を訪れ、比沿岸警備隊保有艦の中で最大級の巡視船テレサマグバヌア=全長96・6メートル、日本供与=に乗船。「中国の威圧に対し、比の領土と航行の自由を守るため比と共に持ち立ち上がる」と宣言し、海上法執行の領域で比にさらなる資金協力を行う計画を明らかにした。
また、アダシ比海軍司令官は11月28日、比米防衛強化協力協定(EDCA)のもと増設が計画されている米軍利用可能施設について、「米軍艦の整備に使える海軍施設の新設もありえる」と認めている。
沿岸国の領海を平和・秩序・安全を害さないことを条件に国連海洋法条約第19条によって認める「無害通航権」については、軍艦にも適用されるとする日英米などと、軍艦には適用されず事前通告が必要とする中国、台湾、ベトナムなどで見解が分かれている。
米国は中国などの主張を「過剰な海上権益の主張」と非難、そうした主張を受け入れない意思表示として沿岸国に通告なしに米軍艦を通過させる作戦を1979年から実施している。(竹下友章)