祝福と批判で反応 ノーベル平和賞のレッサ氏に
ノーベル平和賞受賞のレッサ氏について、「ふさわしくない」との意見
ノーベル平和賞受賞が決まったオンラインメディア、ラップラーのマリア・レッサ氏について、ロケ大統領報道官は11日、「フィリピン人にとっての勝利で喜ばしい」と祝福した。その上で「国内に検閲はなく、萎縮効果を訴えるジャーナリストはジャーナリストであってはならない」とし、報道の自由が攻撃されているとの事実を退けた。
同報道官は「賞はノルウェーの民間人が決めたことで、比政府に痛手などはない。決定は尊重するが、レッサ氏の刑事責任は係争中だ。裁判で汚名をすすぐべき」との認識を示した。また、報道官は国民的芸術家である作家のシオニール・ホセ氏(96)が9日、フェイスブックに掲載した「フィリピンの報道機関は、マリア・レッサのおかげでなくとも健在だ」との意見に同意するとも伝えた。
▽大統領の関与はない
1980年にジャーナリスムと文学、創造コミュニケーションの領域でラモンマグサイサイ賞を受賞したホセ氏は「これによって非難されるだろうが、レッサ氏はノーベル賞にふさわしくない」とし、マルコス政権下での報道機関の試練と現政権下では全く状況が異なることを説明。現在は政権批判で「逮捕された作家はなく、検閲もない。大統領は新聞社やラジオ局を一つも閉鎖していない」と関連性を否定した。
ホセ氏は①大手テレビ局のABS─CBNが放送免許更新を打ち切られたのは議会によるもの。大統領は議会に影響はあるが、問題は報道の自由ではなく、金や政治、権力、さらに所有者ロペス家の権力乱用にある。②歴代の政権下でジャーナリスト殺害はあった。通常、敵対する小物の政治家や役人が加害者だ。③レッサ氏は米テレビ局CNNで働いていた。記憶に残る記事や書き物がない。海外の支援や海外ネットワークを駆使した受賞に資格を疑う──と問題点を列挙。賛否両論が巻き起こり、ホセ氏は11日、批判する者を「許す」とした上で「フィリピンとその自由に、彼女がどんな英雄的犠牲を払ったといえるのか、彼女に資金援助をしているのは誰か、それを自らに問いかけてみろ」と投稿で呼び掛けた。
▽ラップラー締め出しも
11日のラップラーによると、英字紙インクワイアラーは現政権下で、大統領の取り巻きの一人、ラモン・アン氏に売却される寸前までいった。また、同紙やABS─CBN、ラップラーはドゥテルテ政権発足時から大統領の脅迫や攻撃の対象とされており、ラップラーは現在も大統領府や大統領取材を禁じられているという。
フィリピン・ジャーナリスト連盟(NUJP)は現政権下で、少なくともジャーナリスト20人が殺害され、4人が拘束、37件の名誉毀損またはサイバー名誉毀損がなされ、監視、赤タグ付、サイバー攻撃など、嫌がらせは230件に及ぶと報告している。(岡田薫)