ルポ 看護師1人が患者9人担当 「無力さに打ちのめされる」と医師 フィリピン総合病院
フィリピン総合病院の医師・広報担当は、患者数に対して医療スタッフが「圧倒的に不足している」状況を訴えた
医師も看護師らも疲れ果て、苦悩を深めていた。首都圏マニラ市のフィリピン総合病院は、3月下旬から、新型コロナ専用病棟が満床となり、新規患者の受け入れを停止している。病院の医師で広報担当のジョナス・デルロサリオ氏(54)はまにら新聞に「コロナ患者を受け入れられずに帰ってもらわざる得ない状況は医師として極めて無念」と語りつつ、患者数に対して医療スタッフが「圧倒的に不足している」状況を訴えた。
病院の入り口から駐車場に入ると矢印が付いた「COVID—19病棟」と大きく書かれた赤い看板があった。
駐車場はいちばん奥の予備スペースを含めて満杯だった。
ただ、首都圏病院のコロナ病棟のほとんどが満床になっていることが既に市民には知られているせいか、病棟内は意外に閑散としており、患者が治療を求めて殺到しているような光景はなかった。病院中庭では、同病院のスタッフら医療従事者へのワクチン接種が続けられていた。
デルロサリオ氏によると、現在、病院の集中治療室の使用率は100%、コロナ病棟の病床使用率は90%となっている。医療スタッフ不足のため「本来は1人の看護師が患者2人を担当するが、今は看護師1人が新型コロナ患者9人を看ている状況だ」と話した。
「医師も看護師も気力を振り絞っているが、皆疲れ果てている。激務やコロナ感染を恐れて辞めていった看護師らも多い」という。
ドゥテルテ政権は首都圏の病院がほぼ満床となっている状況への緊急対応措置として、屋外にテントを張って患者を収容するよう指示、実際にケソン市の病院などでは屋外の仮設病床設置が始まっている。
しかし、デルロサリオ氏によると「仮設病床を設置しても、その仮設病床を担当する医師や看護師がいない」という。
同氏は「患者を治療することが仕事である者が、患者を追い返さなければならないという状況は医師になってから初めての経験。新型コロナという病気の恐ろしさと、医師としての無力さに打ちのめされている」との思いも吐露した。
フィリピン総合病院は病床総数1500の首都圏でも代表的な大規模国立病院。私立のマカティ・メディカル・センターなどと比べると、患者には貧困層も多い。(石山永一郎)