新年の願いは「金より健康」 春節の訪問者は大幅減
旧正月「春節」の12日、マニラ市ビノンド地区の中華街は寂しい新年
中国の旧正月「春節」の12日、マニラ市ビノンド地区の中華街への訪問者は例年に比べ、大幅に減り、寂しい新年となった。コロナ禍以前は、ドラゴンダンス(龍舞)やパレードに国内外の観光客らで黒山のような人だかりができ、爆竹の音もこだまする、にぎやかな春節だった。しかし、今年はモレノ市長が1月29日に中華街周辺での旧正月関連行事をすべて禁止する市長令を出していた。
赤い装飾を施した店が並ぶオンピン通り。赤や金色で彩られた飾り物、ティコイ(餅菓子)、饅頭(まんじゅう)などが売られ、買い物客が立ち寄っていた。巡回する警官は、人の密集を見つけるたびに「ソーシャルディスタンス」を呼びかけるアナウンスを録音機能付きメガホンで流す。啓発のちらしも配って、互いの距離を取るように絶えず、呼び掛けていた。
▽脇道でひっそり
モレノ市長は就任後に市条例で市内の露店を登録制にし、出店できる場所も限定。結局、多くの露店が一掃された。幸運を運ぶとされる果物を売る店の多くは、目抜き通りから離れた脇道でひっそり商売をしていた。
露店野菜商のエベリン・キタリッグさん(43)はこの日、即席コーヒーや水、たばこ、卵を売っていた。中華街には約10年前から住み、中華系比人の顧客を抱える。
サマール州で生まれ育ち、兄弟は8人。7歳で父を亡くした。食事は主にサツマイモやバナナ。学校に通えたのは小学5年までだった。
「15歳で家事手伝いに雇われた家庭で、腐りかけのコメを主人に与えられるなどいじめを受けた」。つらい過去も明かしてくれた。
今は2人目の夫がいるが仕事はなく、野菜販売を手伝っている。
新年の願いを聞くと、「大切なのはお金ではなく、健康。体を壊せば、病院代や薬代に消えてしまう」と答えた。
▽仕入れは半分
キタリッグさんのおいの妻がすぐそばで、商品のショウガに赤いひもを結わい付けていた。「今年は例年の半分しか仕入れていない。それすら売れないのではと心配している」という。
路上警備の警官は、同じ警察署から20人が動員されていると説明。「コロナ禍で経済が衰退している感じがして悲しい。今年は元に戻ってほしい」と語った。
ラッキーチャイナタウン(モール)で写真を撮っていたノルメイさんは、女友達3人でパサイ市からマウンテンバイクに乗って来た。「ドラゴンダンスもなく、ちょっと残念。それでも楽しい」と笑顔だった。今年は「新型コロナからの安全と、人生の祝福。コロナ禍でのみんなの気持ちの結束」を願っているという。(岡田薫)