力が正義の時代到来か RCEP協定署名
世界最大の貿易圏が期待外れになる可能性がある。実例を見たければ、上海の浦東空港の関税倉庫を見ればよい。東アジア地域包括的経済連携(RCEP)最終段階の調整が行われていた今月初め、数千トンのオーストラリア産ロブスターに数日間の遅れが生じた。RCEPルールでは生鮮食品は6時間以内で手続きすることになっている。同国からの7分類の輸入品の手続きを遅らせるようにとの中国政府の非公式命令によるものだった。
両国の間の争いから、中国外務省は今月、オーストラリア側に「良い経済関係を望むなら、自らの行動を省みることが先だ」と伝えていた。
この出来事は今の時代をよく表している。ソ連崩壊後、法に基づく世界秩序を構築しようという試みは、力を正義とする外交に道を譲ってしまった。この傾向は自由貿易を誇る取り決めにも、その影を落としている。インドが抜けて当初の予想以上に突っ込んだ合意を見た部分はあるようだ。しかし、それでも同経済圏は欧州経済地域はおろか、米離脱後の環太平洋パートナーシップ協定(TPP)にも及ばない。見込まれている利益が余りに小さいのだ。世界貿易機関(WTO)は関税を引き下げ、ルールを一致させ、紛争解決の仕組みを作って、貿易と投資を促進することを目指して創設された。
RCEPとTPPは昔の経済ブロックへの逆戻りだ。域内への統合は、域外との疎遠を意味する。RCEPは中国がけん引する世界秩序と見なされている。
過去4年間の激しい中国と米国の応酬にもかかわらず、中国の経済進出を押しとどめることはできなかった。WTOは牙を抜かれたトラとなってしまっている。コロナ禍の深みから回復を待つ今も、世界の貿易量は過去4年間で最低レベルだ。新たな合意にも、世界経済の厳しい状況を見誤ってはならない。(16日、ビジネスワールド、デイビッド・フィックリング)