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1月4日のまにら新聞から

新春対談1 根底に日本の貧困問題、ノンフィクション作家水谷さん

[ 1862字|2016.1.4|社会 (society) ]

 フィリピン移住に最後の人生を賭ける邦人たちを描いた新著「脱出老人」の著者で開高健ノンフィクション賞受賞の水谷竹秀さん(40)と、首都圏マカティ市の法律事務所で、アジアでの日本の法律の「弁護士需要」について法務省の委託を受けて調査している岡崎友子弁護士に「新春の所感」などを聞いた。

 ▽2作目の「脱出老人」を出版をした去年はどんな年でしたか

 日本に帰る回数が7回と多かった。出版のため5月からほぼ毎月日本に帰っていた。タイにも3回。タイも日本も2〜3週間滞在するので比にいる期間が半年くらいになった。慌ただしい感じの1年だった。

 ▽出版後の反応は

 特に介護の問題とかは「他人事とは思えなくなった」というような声もあった。日本で「下流老人」という言葉が流行語大賞に選ばれたように、生活保護を受ける予備軍が増えると見込まれる中で、特に30、40代は「僕たちの老後ってどうなるんだろう」「年金がちゃんともらえるのか」という不安がある。

 ▽海外へ移住を決めた高齢者の成功の秘けつは

 うまくいく人というのは「受け入れる心」がすごく広い人だと僕は思っている。それは比人とうまくいくかどうかに限らず、海外に移住した時にどこの国でも当てはまることだ。違う環境に移った時に「異質な物をどれだけ受け入れるか」ということでしかない。「寛容性」が移住先でもうまくやっていけるかを分けるんじゃないか。

 ▽根底にあるのは日本の貧困問題と読み取れたが、いつ興味を持ち始めたか

 前作でも触れたが、09年の正月、派遣村といって日比谷公園で派遣労働者を支援する炊き出しが出てきて、日本の貧困問題というのが騒がれ始めた。ずっと比にいて「日本はこんなことになっているのか」と思った。日本に帰ると書店に「貧困」関連の書籍コーナーがある。その時から興味はずっとあった。こっちにいる日本人は「日本社会の映し鏡」みたいなところがある。なんで海外に来たのかという原因を掘っていくと、必ず日本社会の問題に突き当たる。

 ▽「脱出老人」のテーマともなった老後の幸せとは

 僕の中で「老後の幸せ」って何かと考えたら回答は明快で、「人とのつながり」しかないと思う。それがない人は寂しい。年金も蓄えもあって、でも人とつながれていない人はいると思う。その人が幸せかっていったら、僕はちょっと分からない。そんなに年金があるわけでもなく、普通の生活をしている人でも、地域社会に溶け込んで、自治体でうまくやっていたり、隣近所の付き合いがある人は幸せだ。そのつながりがすごく重要。

 ▽今後、発展と比例して比の介護は変わるか

 比の庶民は家族といるのがベース。今、存在する介護施設は富裕層向け。比では家族が面倒をみるから介護施設が少ない。「昭和の古き良き日本」をほうふつさせるところがあり、日本の高齢者たちは居場所を見つける。しかし、富裕層になってくると違ってくる。経済成長と人間関係の希薄化は比例する。比にも日本のような問題は起こってくるかもしれない。取材で比退職庁長官も言っていた。

 ▽「書く」原動力は何か

 取材した時に僕は感情移入する。僕はしてもいいと思っているし、感情移入しないとなかなか書けない。そういう取材の現場で、これをどうしても形にしたいというものがあるからやっていける。書くということを幸か不幸か僕は選んだ。自分が書いて写真を撮って、形になって、それが世の中の人たちに読んでもらえるというのは幸せなこと。そこはモチベーションになっている。根底にあるのは、最初に比に来た時の思い出。電気も水もない村にいってボランティアをした。村人たちがよくしてくれた時の印象がずっと残っている。物質的に恵まれていることが、必ずしも幸せなのかどうかというのはその時からずっと考えている。振り返ってみると、日本社会は恵まれているように見えるのに、冬になるとなぜ電車の人身事故が起きるのかとか、考えるようになった。日本社会に対するもやもやが、僕の中の根底にあり、書き続けることにつながっている。アジアから日本を見ていきたい。

 ▽今年の抱負や展望は

 今、新作を書いていて、取材も進めている。出版を機に、また新たな出版社から声をかけて頂いた。出版業界は斜陽産業。出版不況は深刻な問題で、そんな中でやっていくのは過酷なこと。ノンフィクションは取材にお金がかかるが、僕はそういう道を選んだから、ぶれずに書き続けたい。(聞き手・冨田すみれ子)

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