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5月4日のまにら新聞から

ハロハロ

[ 730字|2015.5.4|社会 (society)|ハロハロ ]

 数十の生命を殺すことから私の一日が始まる。殺されるのは蟻(アリ)である。キッチンの壁、床のタイル、テーブルの上。バスタブの縁(ふち)にも群がっている。シュガーアントというのか芥子粒ほどもないが、スプレーをかけても、蟻道にチョークをぬっても2、3日と効かない。タイルの間を這っているのは指先でつぶし、テーブルの上は布巾で一網打尽にする。だが、殺しても、殺してもやって来る。

 アリとヒトの勝負はどうなるか?100%、蟻の勝ちだろう。何せ蟻は1億年から生存し、種は1万2千を超すという。豪州の内陸砂漠を歩くと強烈な暑さと乾燥のせいで、最後はバッタもヘビもトカゲも姿を消すが、蟻だけは赤土の上を這っている。そして数百年をかけて人間の背丈より高い蟻塚を作る。人類はこの世に現れてたかだか数百万年。それなのにネアンデルタール人も各地に現れた原人も滅び、ただ1種、現生人類しか残っていない。その1種が互いに憎み、殺し合い、核兵器まで作ってしまったのだから、これはもう蟻に勝てるわけがない。

 恐竜全盛のころ哺乳類の先祖はいまのネズミより小さく、窪みや岩陰に身を潜めて生きていたという。恐竜からみれば哺乳類を踏み潰すのは、私が蟻を殺すの同じくらいたやすいことだっただろう。大きな恐竜は滅び、小さい哺乳類は生き残った。豪内陸砂漠の中心部まで行くと、さすがの蟻も生きていけない。そこは一木一草もない。月の表面と同じ岩と石と礫(れき)だけの死の世界である。人類が滅んだ後も蟻は何億年か生き続けるだろう。その蟻もいつかは滅ぶ。弥勒菩薩は50億年後にこの世の救済に来るという。ヒトもアリも姿を消し、静寂だけが覆う地球を弥勒菩薩は見ることになるのだろうか。(雍)

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