ハロハロ
「こんなに汚れるの」。食卓をふいたフキンを妻が見せる。白い布一面にディーゼル車が吹き出したものとしか思えない黒い微粒子が付着している。住まいは街路樹などが大きく枝を広げる住宅街にあり、すぐ近くに公園。幹線道路までは遠い。東京、大阪などの都心部で、これほど緑に恵まれた住環境は知らない。
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ところが、タガイタイの展望台から見ると、拙宅のあるマカティ市一帯は薄墨色のスモッグの中に沈んでいる。「あそこで息をしているのか」。がく然とする。緑が豊かかどうかなど関係がないほど大気汚染は深刻だ。世界銀行「フィリピンでの環境監視・2〇〇2」によると、マニラ首都圏などで毎年、九千人が排ガスが主因の慢性気管支炎にかかり、二千人が死んでいる。
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犠牲者の数は、昨年も大騒ぎした爆弾テロの比ではない。「状況は切迫しており、早急な対応を」と世銀は比政府に改善を呼び掛けている。エストラダ前大統領が「きれいな空気という最高のプレゼントを貧困層の人々に贈りたかった」と、大気汚染防止法に署名したのが一九九九年六月。それから三年余。黒煙をまき散らして走るバスが減ったと思えない。が、「フキンが汚れなくなった」と、この欄で報告する日が訪れることを念じている。(濱)