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11月11日のまにら新聞から

死刑執行施設

[ 1099字|2001.11.11|社会 (society)|名所探訪 ]

政治に揺れる「十字架」

 「命は神に与えてもらったもの。奪う権利はだれにもない。犯罪抑制のために死刑は必要だが、カトリック教徒としては反対だ」

 モンテンルパ刑務所の警備担当者、ヴィック・リボオンさん(47)は一九九九年二月の死刑執行再開以来、死刑囚七人の最期を見届けてきた。「自力で処刑台に乗った受刑者は一人だけだった。残り六人は、暴れたり、一人で歩けなかったり。最後はみな眠るように死んでいった」と言う。

 執行施設は、モンテンルパ市郊外、同刑務所の一角に併設されている。建設費百二十万ペソで九七年五月末に完成した。平屋建てで床面積は二百四十平方メートル。死刑囚房は塀の向こう側、直線距離で約三百メートルしか離れていない。

 執行室は十平方メートルほど。中央には十字架様の処刑台が置かれ、台上から「最後の言葉」用のマイクがぶら下がる。受刑者はベルト十五本でくくりつけられ、両腕から睡眠薬、筋肉弛緩剤、心停止剤を注入されて五分以内に事切れる。

 注入装置を操作する部屋には、ガムテープで束ねられた「使用済み薬物」の塊が三つ、心電図モニターの横に放置されていた。アグバヤニ(九九年六月二十五日)、アンダン(同年十月二十六日)、バルトロメ(二〇〇〇年一月四日)。表面には、塊と引き替えに命を失った受刑者三人の名前と処刑日が記され、容易ならざる雰囲気を漂わせる。

 さらに、執行室へ通じる廊下には、執行手順を時系列で記した表と既に処刑された死刑囚七人の顔写真が並ぶ。八人目の部分には、「?︱次はだれか」と落書き風の書き込みも。施設の補修、清掃係の男性服役囚(45)‖強盗殺人罪で終身刑‖は「(写真などは)見学者向けに刑務所が用意した。薬物の箱もわざとそのままにしてある。実際に見に来る人はほとんどいないけどね」と話す。 

 これまで一審で死刑判決を受けた被告は約二千人。一カ月二十人の割合で増えている計算だが、施設自体は二〇〇〇年一月から一度も使われていない。

 エストラダ前大統領がカトリック教会の機嫌を取るため執行を中断したためだ。アロヨ大統領も前政権の方針を受け継いだが、誘拐事件の続発で今年十月に執行再開を宣言した。ご都合主義で執行停止︱再開を繰り返す政権。「神が与えた命」をもてあそぶ無節操ぶりは、処刑者リストに「?」を書き込んだ刑務所職員の悪趣味より数段たちが悪い。

 施設では今、執行再開宣言を受けて補修作業が続いている。予算は五万ペソ。テレビ映りをよくするためか、外壁やフェンスのペンキ塗り直しが中心だ。肝心の施設内は「明日にでも八人目を処刑できる状態に保たれている」(リボオンさん)という。 (酒井善彦)

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