クバオのビデオCD屋台
涼しい顔で違法販売
ケソン市の首都圏鉄道(MRT)クバオ駅にほど近いエドサ通り沿いの歩道。洋服、果物、貴金属など約八十の屋台が密集している。駅やショッピングセンターに近接しており、歩道に並んだ屋台をくぐり抜けるように歩行者が行き交う。バスやジプニーからの排ガスとクラクションが独特の雰囲気を醸し出している。
屋台の中で一際目を引くのは十数件ほど並んだビデオCDの屋台だ。フィリピンは映画を家庭で見るのに安価に違法コピーが可能なビデオCD(VCD)が人気だ。VCDプレイヤーはビデオデッキの三分の一から二分の一の値段、二千│三千ペソで購入できる。違法コピーVCDは正規販売価格の約六分の一、七十ペソ前後で販売されており、貧困層から中流層の人々にとって欠かせない娯楽となっている。
コピーが市場に出回る速度は異常に速く、七月二十五日に公開された話題作「ジュラシックパーク3」は映画封切りの約一カ月前から販売されていたという。
これらの違法コピー商品は、シンガポールや中国から輸入されている。夫婦でVCD屋台を営むウィルマ・ビエコさん(25)は三日に一回、仕入先の「マニラ市キアポの中国系フィリピン人」から商品を購入する。話題作の未公開映画は『第一版』と呼ばれ、普通の映画の倍以上の高値で販売されている。
「店」である一メートル四方ほどの木箱の上には常時二百枚ほどのCDやVCDが並ぶ、出店料は屋台業者組合に毎月五十ペソを支払うが、見回りに来る警官への「お目こぼし料」に使われているらしい。警官は違法コピー商品は見て見ぬ振りだ。フィリピンは米国などから知的所有権の保護が不十分と非難されているが、ビエコさん夫妻は「すりや強盗をやるよりましでしょう」と涼しい顔だ。
屋台で働く人の多くは金銭的な問題で満足に教育を受けることのできなかった人が多いが、ビエコさんはマニラ市の私立大学でコンピューターマネジメントを専攻した。しかし、卒業後就職した出版会社は、最低賃金に近い五千五百ペソの薄給。嫌気がさして二年前にやめたという。
午前九時から午後十時まで、大雨でも降らない限り年中働いている。だが、現在の二人の月収は合わせて六千五百ペソから四千ペソ。生活は楽ではない。ビエコさんは今年一月に結婚し、現在妊娠三カ月目。増える生活費を賄うため出産後に別の仕事を探す予定だ。
しかし、経済低迷を受け、フィリピンでは就職難が続いている。ビエコさんも大きくなり始めたお腹をなでながら、「子持ちの女性の就職は特に難しいからね…」と不安そうだった。(阿部隼人)