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11月5日のまにら新聞から

「比日米で秩序守り抜く」 ASEAN外交方針を提示 初の首相演説

[ 1646字|2023.11.5|政治 (politics) ]

岸田首相が日本首相として初の比議会演説。比日米協力を通じた海洋秩序の維持の呼びかけに万雷の拍手

比両院合同会議で演説する岸田首相=4日、首都圏ケソン市下院本会議場で竹下友章撮影

 岸田文雄首相は4日午前11時ごろ、首相を招いて開かれた上下両院特別合同会議で、日本の首相としては史上初めての比議会演説を行った。議場には上下両院議員のほか、閣僚、国軍将校、各国大使館関係者が議場を埋め尽くした。

 冒頭で首相は1977年に故福田赳夫元首相がマニラで表明した後の日本の東南アジア諸国連合(ASEAN)外交の基本方針となる「福田ドクトリン」に言及。岸田内閣が打ち出した自由で開かれたインド太平洋(FOIP)の新プランが、半世紀にわたる福田ドクトリンの実践に根ざす「教訓」から得た方針だと明言。FOIP新プランの4本柱が「次の世代に向けての東南アジア外交の基本方針」(3日の首相発言)となるとの位置づけを鮮明にした。

 首相は、3月に発表したFOIP新プランの4原則をフィリピンでの取り組みに引き付けて説明。第1の柱である「平和の原則と繁栄のルール」については、「国際社会が守るべき基本原則を確認し、それによって平和を築くこと」と定義。比では「ミンダナオの和平と経済開発が、インド太平洋の平和と繁栄につながっている」との認識を明確にし、同地域開発への取り組みはFOIPの理念に基づくとした。

 第2の柱「インド太平洋流の課題対処」については、世界に先んじてASEANとの対話を始めた日本の経験に基づいた、対等なパートナーとしての現実的・実践的な地球規模の課題への対処だと説明。具体例としてコロナ禍を踏まえた、早期の病原体検査などを行うASEAN感染症対策センターへの支援を挙げた。

 第3の柱である「多層的な連結性」については、「各国のつながりを強化し、ぜい弱性を克服する際、重点地域の一つはASEANだ」とし、「ASEANの中心性」への支持を表明。ASEAN版のインド太平洋構想である「インド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)」を「FOIPと共鳴する」ものとして、ハード・ソフト両面での連結性を強化するための経済協力の推進を宣言した。

 第4の柱である「『海』から『空』に広がる完全保障・安全利用の取り組み」では、これまで比沿岸警備隊(PCG)に巡視船12隻を供与し、先月には比国軍への警戒管制レーダー初号機の移転を行った実績に加え、今回の訪問で安全保障能力強化支援(OSA)第1号として比への沿岸監視レーダーの供与に合意したこと、訪問部隊の法的地位を定める比日円滑化協定(RAA)が正式な交渉に入ったことを報告。

 引き続き比の安全保障能力の向上に寄与すると宣言した上で、「同盟国・同志国間」の重層的な協力の必要性を強調した。

 具体的には今年、初の比日米3カ国の海上保安機関による共同訓練が実施されるなど、比日米での安全保障協力が大幅に進展したことに触れた上で「こうした取り組みを通じ、力でなく法とルールが支配する海洋秩序を守り抜いて行こうではありませんか」と力強く呼びかけた。その際は、万雷の拍手と歓声が議場を包んだ。

 ▽触れられなかった原則

 1977年の福田ドクトリンは、戦後経済復興に成功した日本が東南アジアに強い影響力を持ち始めたことに対し「第二の侵略」として警戒と反発が広がる情勢下で、「諸国民の公正と信義に信頼してその安全と生存を保持しようという歴史上かつて例をみない理想」を掲げ、①平和に徹し軍事大国にはならない②政治・経済・文化など多様な分野で「心と心の触れ合う相互信頼関係」を築く③「対等な協力者」としてASEAN諸国の強じん性強化、平和と繁栄に寄与する――という3原則を打ち出した。

 福田演説を引き継ぐ新たなASEAN政策と位置づけられる今回の演説では②と③が繰り返し強調されたのに対し、①に関しての直接の言及はなかった。日本国憲法前文に象徴される非軍事的な国際協力から、国際秩序の維持・強化の裏付けとなる実力の構築に関する支援に、日本が一歩踏み出したことを浮き彫りにする内容となったといえそうだ。(竹下友章)

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