「感謝の気持ち一生忘れない」 挑戦6回で日本の国家資格
JPEPA帰国者の比人女性が日本の看護師国家試験に6回目の挑戦で合格
フィリピン人の元看護師ネリー・インペリオさん(37)が日本の看護師国家試験に6回目の挑戦の末、合格した。インペリオさんは今回、比日経済連帯協定(EPA)帰国者枠の受験者で唯一の合格者となった。
日本の第110回看護師国家試験は2月14日に実施された。合格者は3月26日に発表され、比人は25人だった。
コロナ禍のため、訪日が難しい中、念願を果たしたインペリオさんは、まにら新聞に「多くの人の支えがなかったら今の私はいない。この感謝の気持ちは一生忘れない」と語った。
インペリオさんは、比国内で集中治療室勤務や訪問看護などで看護師としての経験を5年間積んだ後、EPAに応募した。1年間の日本語教育予備研修を終え、2011年12月から兵庫県淡路市の病院に勤務。EPA看護師としての滞在期限を迎えるまで3年間、国家試験を受け続けてきた。しかし、「日々の仕事が忙しくて、試験対策のための余裕はほとんどなかった」と振り返る。
EPAで同じ病院に赴任した他の比人やインドネシア人は、国家試験の壁に阻まれて、3年の期限で帰国を余儀なくされた。
インペリオさんは准看護師試験に合格。さらに4年間、淡路市内の病院で働くことができた。訪日以前からつき合っていた比人男性を日本に呼び寄せ、結婚した。生まれた息子は現在4歳になる。
准看護師での在留資格が切れる18年4月、やむなく帰国したが、マニラ首都圏で日本人の元看護師、朝戸サルヴァドール千鶴さんと知り合ったのが転機になった。
朝戸さんが「国家試験に合格して再び日本へ戻りたい」というインペリオさんの願いを実現するよう、一緒に試験対策に取り組んだ。インペリオさんの夫も、インペリオさんが勉強に集中できるよう、仕事や子育てをサポートしてくれたという。
朝戸さんはEPA候補生の面接で通訳を務めたこともあり、15年から比人が日本の看護師国家試験に合格するよう支援を続けてきた。
朝戸さんによると、インペリオさんは、旅費や宿泊費などを負担してくれる日本人篤志家の協力で「帰国者」として試験に再挑戦。「19、20年は必修50問のうち、合格ラインの40点に1点足りず惜しい結果だった」という。
今回は訪日から試験までの10日間、外出が禁止された上、異例の個室での試験となったが、必修は44点を獲得した。
インペリオさんは「すぐにでも日本へ戻りたい」と言うが、日本に戻るのは容易ではない。朝戸さんは「EPAの特定活動のビザで『国際厚生事業団』を通じた、再度のマッチングを待つ方法になる」と説明する。EPAをめぐっては、20年に出国予定だった第12陣の看護師・介護福祉士候補約300人全員が、コロナ禍の入国規制で、現在も比国内に留め置かれている現状がある。
インペリオさんは、日本の病院は比に比べて医者の数が少ないため「看護師自らの判断が求められ、自信ややりがいが感じられる」と語る。自分を信頼し、励ましてくれた多くの関係者を思い出し、笑顔には涙もにじんでいた。(岡田薫)