バナウエの自動車部品店街
日本の「秋葉原」を見る
ライステラス(棚田)で有名なイフガオ州バナウエとは別に、「バナウエ」で知られる「名所」がケソン市にある。自動車部品店が二キロにわたって軒を連ねるバナウエ通りだ。
ケソン通りをエドサ通りから西に走り、サントドミンゴ教会を過ぎると、左右に広がるバナウエ通りには数百軒ともいわれる自動車部品店。「AUTO PARTS」「TOYOTA」「NISSAN」などの文字が並ぶ看板が両脇をにぎわせている。「パソコン」や「オーディオ」などの看板が踊る東京の電器街、秋葉原を思わせ、実演販売が見られるのも同じ光景だ。
一九六八年ごろから自然発生的に自動車部品店が集まり始め、八〇年代に現在のような街並みになったという。
車から顔を出し「サイドミラーが欲しいんだけど」と店先の男性に声を掛けてみた。すると即座に「あるよ。四百ペソ」。「もう少し安くならないか」「いや、精一杯だ」とやり取りをしていると、窓ガラスに張るスモークフィルムを手にした別の男性が声を掛けてきた。納得がいくまで通りを往復し、窓越しに交渉するのがベテランなのだという。
フリーマーケットさながらの二メートル四方の「店」には、「多分、盗難品だろう」と店員が言うタイヤのホイールが並んでいた。盗んだ商品が持ち込まれ、盗まれた人が買いに来る。そんなサイクルも出来上がっている。
総合店は、国内の業者だけでなく、直接、日本に出向いて部品を買い付けるという。そのため、片言の日本語をしゃべる店員がいるのも親しみを感じさせる。
総合部品店、ロードスター・コマーシャルを経営するアルベルト・チュナさん(53)は、「月に一度のペースで神戸に買い付けに出掛け、コンテナ一台分購入してくる。コウベ知ってるか」と日本語交じりで話してくれた。ただ、最近は台湾製の新品が安く手に入るため、回数を減らしたという。
また、「日本人の中には『もうかるらしい』と安易に中古車売買に手を出し、商品がフィリピンに届かなかったり、代金を回収できず失敗する人がいる。日本との信頼関係を構築するのが最も大変で、簡単な商売じゃない」と続け、「日本人は人が良すぎるから」と笑った。
バナウエには、国内各地から自動車整備工場の店員も訪れる。マカティ市グアダルペでアサンテ・モーターショップを経営する中村近夫さん(43)は、「メーカーからの部品がなかなかそろわないのがこの国の特徴。困った時はバナウエまで社員を走らせる」と話した。(浅田光博)