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11月13日のまにら新聞から

「過去最多の船舶で圧力」 再度放水砲を発射 アユギン礁補給任務

[ 1698字|2023.11.13|政治 (politics) ]

アユギン礁で海警局船が比補給船に再度放水砲を発射。中国艦船は38隻が、補給任務につく比船舶5隻に立ちはだかった

比補給船(左)に放水砲を発射する中国海警局船(中央)=10日(比沿岸警備隊提供)

 南シナ海南沙諸島アユギン礁(英名セカンドトーマス礁)付近で10日午前7時半ごろ、中国海警局の718型巡視船(全長102メートル、船首番号5203)が、同礁に詰め所として座礁させてある比海軍艦への補給任務に当たっていた比海軍チャーター船「M/Lカラヤアン」に放水砲を発射した。現政権下で発生した放水砲発射事件は8月に続き2回目。

今回確認された海警局船・中国海軍艦・民兵船の数は、アユギン礁付近に集結した数としては過去最大の38隻。比沿岸警備隊(PCG)のガバン長官は12日の声明で「比の合法的なアユギン礁への補給任務に対する海警局のいわれのない威圧行為と危険操船だ」として非難しながら、「比船はプロフェッショナルな対応で船舶の衝突を防ぎ、緊張をエスカレートさせなかった」と述べた。

 一方で、比はこれまで補給船の護送任務に従事してきた日本供与の44メートル級巡視船「BRPシンダガン」、「BRPカブラ」に加え、PCG保有船で最大の巡視船「BRPメルテョラアキノ」(97メートル、日本供与)を同礁補給船の護送船として初めて投入。強まる中国の威嚇に対抗した。だが、PCGが確認した中国艦船は、海警局船5隻、海軍艦5隻、民兵船28隻の計38隻だったのに対し、比船はチャーター船2隻と巡視船3隻の計5隻のみ。動員できる海洋アセットの格差が改めて浮き彫りになった。

 補給作戦は今回も、比海軍が漁船2隻をチャーターし、それをPCG巡視船が護送する形で実施。以前の任務では漁船「ウナイザメイ」の1、2号船が補給任務にチャーターされていたが、今回2号船は使用されなかった。2号船は、先月の補給任務で警局船の危険操船の末、同船と衝突していた。

 ▽比は行動宣言違反

 米国務省は比時間11日正午ごろに声明を発表。「南シナ海で中国が繰り返し行っている妨害行為に対し、米国は同盟国である比と心を一つにしている」と、妨害行為の主体として中国を名指しし、比への支持を表明。2016年の南シナ海仲裁裁判所判断によりアユギン礁周辺に「中国が主権も海洋権益も有していないことは明確になっている」とし「南シナ海のいかなる海域での比軍、航空機、PCG船を含む公船への武力攻撃」にも、「共通の危険に対処するための行動を実施する」を規定する1951年比米相互防衛条約第4条が「適用される」と中国を警告した。

 米国の軍事同盟国で比とは訪問軍地位協定(VFA)を締結している豪州のヘキョン・ユー駐比大使は10日午後5時半ごろ、X(旧ツイッター)で「中国船による比の排他的経済水域(EEZ)内での放水砲発射を含む危険行為」に対して懸念を表明。2016年仲裁裁判所判断の根拠となっている国連海洋法条約が「順守されるべきだ」と強調した。

 越川和彦駐比日本国大使は10日午後7時半ごろXで声明を発表。「先週の岸田首相の訪比時に両首脳が議論した通り、日本は法の支配に基づく自由で開かれた海洋秩序を重視し、『緊張を高めるいかなる嫌がらせや行動』も容認しない」とした。妨害行為の主体や、どちらの国が管轄権を有しているかには触れず、米豪に比べてより慎重な表現にとどめた。

 一方、中国外務省の汪文斌報道官は10日夜の会見で、「比補給船2隻と巡視船3隻が中国の仁愛礁(アユギン礁の中国名)に侵入し、中国の主権を著しく侵害した」と比を非難し、「在中国比国大使館に重い外交措置を取った」と報告。比が海軍艦を同礁に座礁させ、修理し続けていることについて「同礁を永久に占領する試みであり、中国と東南アジア諸国連合の間で合意された南シナ海行動宣言(DOC)に反する」と批判。比に対し、「挑発行為」をやめ、座礁艦を撤去するよう求めた。

 「現在無人となっている」海洋地勢について紛争を激化、複雑化させる行動に自制を求めるDODは2002年に調印。比はそれに先立つ1999年に、比EEZ内のミスチーフ礁を中国が占拠したことへの対抗措置として海軍旧式揚陸艦「BRPシエラマドレ」をアユギン礁に座礁させ海軍職員の配置を継続している。(竹下友章)

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