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10月3日のまにら新聞から

ハロハロ

[ 638字|2016.10.3|社会|ハロハロ ]

 マカティ市内で開かれた静岡県人会の懇親会に初めて出席した。ほとんどが初対面の人だったが、そこはやはり同郷人である。同じ町内の出身者もいて、故郷の話に花が咲いた。静岡市の職人の家に生まれ、育った。祖母は家業の傍ら祈祷(きとう)師をしていた。呪文によって病気が治るという評判で、祈祷代が払えず、代わりに野菜などを持って来た人々が列をつくったという。わが家には何やら怪しげな門外不出の呪文が伝えられており、しゅうとめから嫁にだけ秘密裏に伝授されていた。

 祖母は戦争後間もなく、他界した。しかし、祈祷の呪文が母に受け継がれることはなかった。祖母は「これからは科学の時代だ」と言って教えなかったという。生前、母は職人の家で「科学」という言葉を聞いて驚いたと、幾度となく述懐していたことを覚えている。祖母にとって科学といっても、漠然としたイメージだったろうが、戦争の非合理性を感じ取り、科学の時代という言葉をはいたかもしれない。祖母なりの時代認識だったと思う。

 近代科学思想は歴史の発展を「人間の合理化」としてとらえたが、戦争の理論はまさに非合理的であり非科学的だった。祖母は頼ってくる人たちを祈祷で救済するのが自分の使命だと、常々、語っていたという。科学を理由に母には呪文を伝授しなかったが、祖母にとって土着的な信仰心と科学という言葉は矛盾するものではなかったと思う。母に伝授されなかった呪文は当然、妻にも伝わっていない。いま考えると、ちょっぴり残念である。(立)

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